新型コロナウィルスの世界的流行とビジネスの変化

新型コロナウィルスの感染流行が広がり始めて、すでに2ヶ月余りが経ちますが、そのビジネスへの影響について様々なデータや調査が出てきましたので、それらを眺めつつ、この感染流行後へのビジネスの変化について、考えてみたいと思います。

人々の移動が制限される中で、必然的にリアルからデジタルへのシフトが進むわけですが、新型コロナウィルス感染が最初に広がった中国での消費行動の変化を見ると、それは顕著であったことをうかがい知ることができます。

感染拡大期にあった春節の時期で、カルフールが提供する野菜のデリバリーは、対前年600%、JD.comが提供するオンライングローサーは、対前年215%の成長でした。またモバイルインターネットの利用時間も1月初旬は1日6.1時間だったものが、春節後には、7.3時間と大きく伸びています。

また、リモートワークの広がりで、例えば、Microsoft Teamsは、中国国内での利用が、500%成長となっていたり、Alibabaの提供するDingTalkが1000万の企業組織や2万の学校のオンライン授業に使われるなど、働く環境や教育におけるクラウドツールが一気に広がりを見せています。

また医療の現場では、遠隔診療や薬の処方を支援するサービスが試行されたり、新型コロナウィルスに関するフリーのオンラインコンサルティングのサービスが立ち上がったりと、こちらも、一般の消費者に体験してもらう格好の機会とばかりに、様々なサービスが広がり始めています。

 

こうした環境下で、ecommerceが伸びる、というのは、誰しもが想像するところではありますが、状況はそれほど単純では無いようです。やはり、サプライチェーンや在庫の問題から、需要はあっても、供給ができないという課題に直面したり、あるいは、将来の収入への不安や株式市場の縮小による資産の目減り効果などから消費意欲が減退するといった懸念から、ecommerceに対しての成長期待は、必ずしもポジティブな意見ばかりではありません。

実際、米国の小売業に対する3月1週目の調査では、期待値は半々、といったところ。おそらく、米国での新型コロナウィルスの状況が悪化している現在では、さらに慎重な意見が増えているかもしれません。

(出典:Digital Commerce 360の調査

しかしながら、今回の新型コロナウィルスの影響で、消費者の在宅での消費体験が増加したことにより、eCommerceあるいはOmni Channelへのシフトが進むことは必然的かと思います。

 

 

それとともに、ブランド側の情報発信のあり方にも影響を与えそうです。先行き不透明な状況において、ソーシャルメディアで流通する情報に対する見方は厳しくなっており、オーセンティックな情報ソース(公的機関や医療機関など)に信頼を寄せる傾向にあります。


(出典:株式会社QLifeによる新型コロナウイルス感染症に関する緊急アンケート

 

実際に、Facebookなどの大手SNSプラットフォーマーは、現在のような時期だからこそ、信頼性の確保が重要という認識にあるものの、信頼性確保において、非常に厳しい状況にあるようです。Wiredの記事によれば、Fake News問題以降、コンテンツの信頼性チェックのための大規模な組織を作り、信頼性回復に努めてきたわけですが、今回の新型コロナウィルスで、在宅勤務体制へのシフトせざるを得ず、人的なチェック体制が十分確保できず、AIや機械学習への依存度が上がり、必要以上にコンテンツを削除したりと、混乱をきたしているようです。短期間に解決できる問題でもなく、人との繋がりを求めて、人々がSNSを利用する機会も増えている中、ジレンマに陥っている、という状況もあるようです。
(出典:Wired記事 Coronavirus Disrupts Social Media’s First Line of Defense)

 

こうした中で、SNSを通じて、家族・友人・同僚など、すでに信頼関係のあるつながりの重要性が増しているとも言えるでしょう。Edelmanの調査によれば、信用できる情報源としての評価は、政府やメディアの情報より、勤務先の方が高くなっています。これは、ブランドにとっても、顧客との信頼関係の重要性を示唆しているのではないでしょうか。
(出典:Edelman調査 EDELMAN TRUST BAROMETER SPECIAL REPORT ON COVID-19 DEMONSTRATES ESSENTIAL ROLE OF THE PRIVATE SECTOR

eCommerce, Omni Channelへのシフトにおいても、顧客との信頼関係を同時に築いていく、Direct-to-consumerの考え方が、重要になってくるだろうと推察します。

Direct-to-consumerのスタートアップ企業の中には、新型コロナウィルスの広がりとともに、リアル店舗を一時閉店することになり、それに対して、SNSを通じてファンとのダイレクトなコミュニケーションをとっている企業もあります。リアル店舗からオンラインへのスムーズなシフトを図るべく、企業の方針やオンラインでのサポート状況を丁寧に説明し、さらには、企業理念に触れつつ、理解を求めています。人々が信頼できる繋がりを求めている時だからこそ、ブランドとの絆をより確かなものにしよう、そうした企業の姿勢が伺えます。ダイレクトな顧客との繋がりをあまり持たない企業にとっては、一朝一夕に真似のできることではありませんが、こうした企業の非常時のアクションを研究することは、Direct-to-consumerのビジネスを考える上で、参考になる部分が少なくないと思います。

こうした非常時での企業のアクションは、その成果を踏まえ、普段の企業活動にも反映されることになるでしょう。消費行動の変化とともに、こうした非常時において、顧客や一般の消費者に対して、何ができるのか、各ブランド企業の姿勢が問われている時でもあるかと思います。短期的な視点ではなく、中長期的な顧客との関係づくりに優先順位をおき、コミュニケーションを考えるべきかと思います。

 

Direct-to-consumerの代表格、Allbirdsのソーシャル上でのコミュニケーション

1. リアル店舗の閉店時のメッセージ (出典:Allbirdsのソーシャル上でのコミュニケーション)

 

2. ヘルスケアに携わる人々への靴の寄贈を伝えたメッセージ (出典:Allbirdsのソーシャル上でのコミュニケーション)

 

3. 多数寄せられた上記メッセージへ問い合わせの遅れをお詫びする、メッセージ (出典:Allbirdsのソーシャル上でのコミュニケーション)

 

 

 

CES / NRF 2020

 

毎年1月は、米国でCESとNRFという2大イベントが開催され、これらのイベントでの、新しい企業の発表が、この1年の業界のトレンドを占うものとして、世界中の注目を集めています。
特にデジタルがどちらのイベントにおいても中心的なテーマになって以降、注目度は高まるばかりで、企業側も自身の業界イベントよりもこれらのイベントにおいて、新しい取り組みやイノベーションを紹介するのが一つの流れになってきたように思います。

IsobarもUSオフィスからCESのレポートが出されていますが、そこから今年のトピックスをご紹介しましょう。

デジタルアシスタンスの進化
Siri, Alexa, Googleにリードされる音声アシスタンスが、プライバシー問題を回避しながら、さらにパーソナライズされた顧客体験の提供に向けて進化。Samsungは、”Artificial Human(人工人間とでも訳しましょうか?)“というコンセプトでNEONというアバター型のデジタルアシスタンスを紹介、BallieというStarWarsのBB-8のようなアシスタンスロボットとともに、これからのアシスタンスのあり方を提示しました。

ヘルステックの新たな領域
バイオメトリックス(生体認証)が、ウェアラブルの世界だけではなく、バスルームのマットやアダルトグッズなどにも活用され、新たな広がりを見せている(アダルトグッズ業界は、今年初めてCESでの出展を認められ、イノベーションアワードを受賞した企業も現れました)。またデータ収集と分析の進化により、より深い体のコンディションを理解するサービスが登場している。寿命を示唆することはできないが、健康年齢に関する情報を提供するサービスや、パーキンソン病など脳に関連する疾患の患者に向けたアシスタンスサービスが登場している。

拡張するVR/AR
Hapt VR Glovesは、VRに映像とサウンドだけではなく、触覚もバーチャルに体験できる機能を付加。製造業でのトレーニングや製品テスト、医療教育など業務プロセス内での利用がまず検討されています。Panasonicは、VR製品自体のデザインの刷新を試み、ヘッドマウントディスプレイをより使いやすく、見た目にも「異様さ」がない、軽量な製品を発表しました。こうした取り組みから、5Gという追い風を受けつつ、VR/ARが、いよいよ広がりを見せていくものと思われます。

これ以外にも、折り畳み可能なディスプレイがモバイルデバイスだけでなく、ラップトップにも広がるとか、Uberとヒュンダイによる「空飛ぶタクシー」の紹介や、トヨタやソニーによる新たな自動車産業の取り組みなど、色々と報道されているように、今年も様々な企業から将来に向けたビジョンが発表されました。

英語版レポート
Isobar CES 2020 Recap Report

日本語版レポート
Isobar CES 2020 Recap Report

Samsung at CES

 

流通業界の世界最大のイベントで、今年も4万人が集まったNRF
一方、NRFですが、CESほど日本での知名度はありませんが、流通業界の世界最大のイベントで、今年も4万人が集まったそうです。デジタルシフトは、この業界でも必然の流れで、今年のキーノートスピーチのトップバッターは、MicrosoftのSatya Nadellaでした。彼のスピーチによれば、米国のGDPの31%は、リテールに関わるものであり、巨大なデータポイントです。

NRFにおいても、マーケティング業界同様、Experienceに大きく注目が集まっています。Customer Experienceの向上のために、CDP(Customer Data Platform)の活用と、Headless Commerceアプローチによる、チャネル構築がトレンドになりつつあります。そしてまた、データとAI活用も大きなテーマです。

StarbucksのKevin Johnson CEOは、Keynoteの中で、Deep Brewという自社のAIプロジェクトを紹介しましたが、”Third Place”を標榜するStarbucksにとっては、デジタルとブリック&モルタル(リアルの店舗)の共存が長期的な戦略であり、例えば、バリスタが接客に集中できるように、AI活用によりスタッフのワークシフトの最適化や、自然言語解析により、POSレジでの入力業務を削減したりすることで、人的オペレーションによる顧客エンゲージメントを高めることを目的にデジタルを活用しています。そして、社内の意識改革を進め、新たなデジタル施策の導入サイクルを早め、idea-to-action in 100 daysを目指しています。実店舗を持つ、日本のリテール業界においても、こうしたStarbucksの考え方は、大いに参考になるかと思います。

優れたCustomer Experienceを実装するためには、データの活用が不可欠ですが、大手流通企業では、データサイエンティストの採用に積極的で、Targetでは、1年間に千人を超えるデータサイエンティストが採用し、今後も同規模の採用を続けるとのこと。日本では考えにくいスケールの話ですが、デジタルと実店舗のあらゆる領域でデータ活用が必要となる現在、他社に先手を打ち、社内カルチャーを変えていくために、社内体制の強化が不可欠になっています。

顧客体験のペインポイントの解消という観点から、米国では、返品体験の改善と、BOPIS(Buy Online Pickup in Store)のようなデジタルと実店舗の融合したサービスにフォーカスが当たっています。前者は、日本においてはそれほど課題になっていませんが、後者については、日本においても新たな顧客サービスの提案として今後広がっていくものと思います。米国では、75%のショッピング体験が、何らかの形でデジタルから始まると言われており、そこから実店舗への体験をシームレスにつなげていくことが、顧客満足度を高めることになります。Walmartでは、デジタルチャネルとIoT, ジオフェンシングなどの技術要素を組み合わせ、この実現に務め、大きな成功を収めていることが、よく知られています。顧客の日常の購買体験をシームレスに、フリクションレスに仕立てていくことに、様々なテクノロジーが導入され始めている、米国企業の先端ケースが数多く紹介されたNRFですが、CESだけでなく、来年以降も注目をしていきたいイベントです。

英語版レポート
Isobar NRF 2020 Recap Report

日本語版レポート
Isobar CES 2020 Recap Report

NRF  Satya NadellaのKeynote Speech

マレーシア初のユニコーンとウワサの「Grab(グラブ)」


先日、マレーシアやベトナム方面に出張する機会がありました。
そこで今回は、出張時に得た気付きとマレーシアで話題のプラットフォーム「Grab(グラブ)」について取り上げたいと思います。

マレーシア市場はちょっと難しい

じつは、マレーシアへの出張は初めてだったこともあり、事前に少しリサーチをしてみました。せっかくなので少しご紹介しましょう。
マレーシアの人口は約3,200万人(2017年マレーシア統計局)。
国民一人当たりのGDPは、シンガポール、ブルネイに次ぐ高さを誇っています。主に、原油・石油製品、パ-ム油やLNGといった資源の輸出で潤っているとともに、
欧米や日本の製造業が多く進出しています。サービス業では、観光産業が多いほか、医療や教育といった分野も成長産業になっています。

マレー系(約69%)、中国系(約23%)、インド系(約7%)という多民族国家としても知られており、イスラム教が61%と大多数を占めます。
が、仏教、儒教・道教、ヒンドゥー教(6.0%)、キリスト教(9.0%)ほか、地域に根ざした宗教もあるようです。
参考;外務省「マレーシア基礎データ

このように宗教や文化的背景が異なるひとが多いため、広告プロモーションの立場からすると、各属性に合わせた展開が必要になり、予算が分散しやすいマーケットと認識されています。
ひと言でいうと「統一した施策が打ちづらく、マスマーケティングがちょっと難しい」といったところです。

マレーシアのメディア事情

メディア事情も特徴的です。モバイル(スマートフォンやタブレットなど)の普及台数は4,000万台と言われ、国民ひとりあたり1.25台くらい所有しているという計算になります。
web利用や通話、動画視聴といった利用スタイルが浸透しているとの調査結果も出ていることから、典型的なモバイルファーストの国です。

そうした背景もあり、広告出稿もいわゆるマス媒体よりモバイルへの伸びが高くなっています。日本のようなTVやラジオ、新聞を中心にしたメディアの発展と普及が起こる前にモバイルベースのデジタルサービスが主流になった、ということなのでしょう。

特に人気のサービスは、Youtubeをトップに、WhatsAppやFacebook、InstagramやMessenger といった順だとか。Googleは頑張っているものの、Facebook関連サービスがマスメディアのようになっている、という様相です。月間のActive User数で見れば、人口3200万人に対して、Facebookで2,400万人にリーチできます。

Grab(グラブ)の発展から考えられる施策

こうしたモバイル・ファーストな国では、新たなプラットフォームも盛んに生まれてきます。そのなかでも注目株なのが「Grab(グラブ)」というアプリです。東南アジア版Uberみたいなもので、マレーシア初のユニコーンとの呼び声も高く、ソフトバンクほか、トヨタやホンダも出資企業に名を連ねています。

昨年、Uberの東南アジアのビジネスを買い取って、一気に配車アプリとしてトップの地位を確立した「Grab」。マレーシア国内で見れば、利用コストは安く、日本のタクシーの1/5〜1/6くらいに設定されています。そうした利用しやすさのほか、モータリゼーションが進んだ国ということもあって、現地の足としても親しまれているというわけです。

ちなみに、マレーシアでは自動車の配車アプリとして利用されていますが、ベトナムではお国柄か、バイクの配車アプリとしても利用されています。

さて、東南アジアの期待の星である「Grab」ですが、配車アプリとしてだけではなく、フードデリバリーや決済サービスも提供し始めています。マレーシアでもキャッシュレスはまだまだ普及途上なところがあるようですが、「これをカバーするのはGrabだろう」と目されています。実際に、決済をするとクーポンが付与されたり、ポイントが貯まったり、といった仕掛けもあるようです。今後のサービス拡充がますます期待されるところです。

こうした一つのドミナントなプラットフォームからマルチ展開するスーパーアプリは、中国はWeChat、タイでは日本同様LINE、というように国によって異なりますが、我々のクライアントであるブランドにとっては、カスタマーエクスペリエンスにおける重要な接点になり得ます。モバイルファーストであるほど、こうした接点の充実ぶりが加速していますので、こうした勢いがあるプラットフォームとは、ぜひ何か一緒におもしろいことをしたいものです。日本からアイディアを持ち込んで、現地のオフィスと組んで実現したいものです。そのことが、逆に日本での新しいサービス開発のヒントにつながるのではないかと思います。

そんなことを考えていたら、なんとGrabがJapan Taxiと組んで日本に進出するというニュースが飛び込んできました。アジアのユニコーンの動きも海外展開のスピードを増してきています。

「Grab」に限らず、海外にはこういったチャンスがまだまだ眠っていることでしょう。これからも、新しく誕生したサービスに注目し、ビジネスチャンスを探っていきたいと考えます。

MaaS推進の前に日本が目を向けるべきこと

このところ「MaaS(Mobility as a Service)」への関心が一層高まっているように感じます。鉄道会社と航空会社の連携や、IT企業と自治体、IT企業と自動車メーカーの連携といったニュースが立て続けに報じられているのを目にした方も多いでしょう。

国内では、トヨタ&ソフトバンクの「MaaS連合」が注目を集めるなど、熱を帯びるMaaSですが、私たちも、この分野にどう貢献できるか、考えていく時期に来ていると考えています。

MaaSの取り組みは、世界中でおきていますが、日本の動きは、シンガポールやスウェーデンといったこの領域における先進諸国に比べて、「遅れている」と言わざるを得ない状況なようです。

北欧の大学の研究によれば、MaaSを実践するステップは、交通事業者間による「情報の統合」に始まり、「予約・決済の統合」「サービスの融合」「政策との統合(社会課題解決との統合)」へと発展していくと考えられますが、日本は、まだ最初の段階。しかし、諸外国の中には、ヘルシンキのWhimのようにサービスの融合レベルまで実現しているものもあります。

では、日本がこの分野を活発化していくにはどうすればいいか?

これを考える前に、“足下の状況”を見てみましょう。

 

CX(カスタマーエクスペリエンス)を良くしようという発想が感じられない日本の予約サイト

至近の例として、私が体験した“残念なCX”についてお伝えしましょう。

この夏、休暇をフランスで過ごそうと、空港に向かうべく交通機関のチケット予約をしようとした時のことです。

まず、パソコンで交通機関の予約サイトに飛び、チケット予約について調べてみました。すると「チケットレス申し込みがおトク」というリンクが。確かに、価格は200円ほど安く設定されています。「これはいい!」とクリックすると、なぜかこの交通機関のサイトから別の購入サイトに遷移することに…。

では、その購入サイトでそのまま席の予約ができるかというと、できないのです!

実は、割引はスマホからの予約のみ。もちろんそのような説明がサイト上にはあるのですが、情報量が多いサイトゆえに、そのことに簡単に気がつくのは難しそうです。結局、スマホから検索し直して、チケットレスで予約はできたのですが、正直、残念な気持ちになります。

この交通機関のサイトは少なくともこの10年、前述のように自社のサイトとチケット予約のサイトが統合できていない状態が続いています。また、ユーザーIDの統合もされておらず、利用者にとって非常に複雑な仕様になっています。これでは良質なCXをもたらすことはほぼ不可能と言えるでしょう。

「日本人である私がたくさん疑問を感じる仕組みなのだから、海外からのお客様がこの交通機関を使おうとすると、さぞ大変な思いをするだろうな」と、英語版も見てみることにしました。

すると、この交通機関のTOPページにはびっくりするほどたくさんの情報が盛り込まれていました。これではすぐに知りたい情報にたどり着くのは困難なはず。しかも、チケットに関しては「券売機で買える」という情報だけが…。なぜ、オンラインで購入できないのか、首をひねりたくもなります。

実際、私は、いつも空港でたくさんの外国人観光客が購入窓口や券売機に並んでいるのを見かけます。かつてその列に並んだこともありますが、日本人だけの列と違い、券売機の前で迷う人も多数いて、思いのほか時間がかかり、乗りたい電車を逃したこともありました。


Google Mapさえ使えれば、すべての交通手段の予約が可能

さて一方、フランスでの滞在中、モン・サン・ミッシェルまで足を伸ばそう、ということになり、パリからの行き方を調べてみました。

そこで、行き方をGoogle検索してみたところ、検索結果の1ページ目にはほぼオンラインチケット申し込みのリンクが揃っていました。これは、日本では見られないものです。

Google Mapの検索結果

 

「パリからモン・サン・ミッシェルへの道のり」検索結果 ほとんどが予約サイト

検索結果の中からひとつのサイトを選んで、チケット予約をしようとすると、そこではバスと列車がいっぺんに予約できるようになっていました。パリからモン・サン・ミッシェルまでは、ツアーバス以外は、鉄道とバスの組み合わせで行くのが主流のようで、利用する交通手段それぞれの予約を別々に行なうことを想定していた私は、この便利さには、感心しました。

検索結果の中から「RailEuropa」に遷移すると、日本語で予約が可能

その後調べてみると、このような便利なサービスはフランスに限ったことではなく、ドイツなどでも同様です。航空会社、バス会社、鉄道会社ほか、複数の企業が連携して利便性を高めることが、普通にオンライン上で実現されています。

またパリ滞在中、市内の移動にはGoogle Mapが欠かせません。そして行き先を検索すると、メトロなどの公共交通機関に加え、Uberや新興の電気スクーターのLIMEといった代替手段も提示され、アプリへのリンクで予約もスムーズにできるようになっていました。

列車とバス以外の交通手段とその予約も可能に

つまり、パリのような都市では「Google Mapが使えさえすれば、移動の心配はほとんどない」というわけです。

はじめに「海外では日本よりMaaSが進んでいる」と紹介しましたが、このように、すでに企業間の連携が具体的に始まっており、利用者がwebやモバイルで簡単にそのサービスを活用できる環境が整っているからこそ、取り組みがスムーズに進んでいるのかもしれません。

 

もう一例、フィンランドの「whim」を挙げておきましょう。

このアプリには、様々な交通手段の予約システムが統合されていて、自分が行きたい場所を入力しさえすれば、経路と交通手段の提案がなされます。もちろん、そこで予約も可能です。

「whim」のファウンダーは、長らく交通とITに関する様々なサービス開発に関わっていて、直前は産学官の高度道路交通システムのコンソーシアムの代表を務めていたとのこと。そのため、マイカー依存に陥っていたヘルシンキ市民を公共交通機関の利用へとシフトさせたいと考えていた中央官庁の協力も得られ、その大義のもと、利害関係が異なる複数の企業も好意的に参加してくれたのかもしれません。逆に、同サービスはグローバル展開を進めていますが、ステークホルダー間の利害調整がボトルネックになっているとの話も聞こえてきます。

 

現在の利便性に満足せず、CXの視点で考えることが求められている

では、再び日本の現状を見てみましょう。

こうしたサービスが有効に活用されるであろう都市部では、公共交通機関の利用度も高く、高いサービスレベルにあります。マイカー依存の問題という話も聞こえてきません。また、Suicaなど電子マネーによる公共交通機関の決済は共通化が進み、利便性も高い状況にあると思います。では、Maasのニーズはあるのでしょうか?

私たちの日常生活の顧客体験は、スマホとクラウドサービスによって日々変化を遂げています。その中で、顧客が期待するCXのレベルも日々上がっていると言えます。海外旅行でオンラインサービスの便利さを体感したら、日本でも同様のサービスを期待するのは、当然のことです。Suicaなどオフラインでのサービスレベルが高いだけに、オンラインをベースとしたCXがイマイチなのは、なんとも残念なことであります。ハード偏重でソフトが出遅れた他の産業に似た印象を受けます。

そしてまた、観光立国を目指す日本であれば、グローバルスタンダードなCXを公共交通機関で提供することは、必須の社会課題だと考えるべきではないでしょうか?

人口減少が進み市場の縮小化が避けられない現状を前に、新たな収益モデルを見付けなければならない、という環境の中で新たな価値を生み出す為にも、取り組むべきテーマだと思います。

私たちは、こうしたところに「CX目線でMaaSの取り組みを加速させるにはどうすればいいか?」を提案することで、企業の課題を解決し、社会に貢献できるかもしれないと考えています。

「インターネット・トレンド2019」の注目点

 

クイーン・オブ・インターネットこと、メアリー・ミーカー氏による『インターネット・トレンド 2019』が公開されていますが、毎年この時期に恒例となっているこのレポートには、11のテーマが挙げられており、インターネットやテクノロジー関連だけでなく米国内の移民問題やヘルスケアに関する課題、米中問題などについても語られています。

ここでは、このレポートから私が特に注目している点を紹介したいと思います。

 

インターネット関連ビジネスは、依然多くが成長分野として力強い

まず、米国国内のレポートではありますが、Eコマースの成長は12.4%と引き続き力強い成長を遂げていることが指摘されています。リテールセールスの成長率が2%程度なことと比較すると、その伸び率は相当なものだと言えるでしょう。

インターネット広告への出稿については、前年比で25%の伸びであったと記されています。3〜4年の中期視点で見ても、その成長率は20%なので、インターネット広告は依然、大きな成長分野です。ただ、一方で日本のインターネット広告の成長は2桁成長はしているものの、ここまでではなく、過去数年、数ポイント程度下回り続けています。どこに違いがあるか、我々は認識を深める必要があるでしょう。

ただし、インターネット広告にも変調も見られています。グローバルでのレポートでは、たとえば、GoogleやFacebookの二強の成長はやや鈍化しており、Amazonやツイッター、Pinterestの伸びの方が強い、という傾向が見られると分析されています。GDPRほか、各国が個人情報保護の法令を強化する今日、この2社の評価がどのように変化していくか、引き続き注視していくべきでしょう。

また消費者の利用時間で見ると、主要プラットフォームの中で最も利用時間が伸びているのが、YouTubeとInstagram。動画やビジュアルコンテンツがマーケットを牽引している状況が伺えます。

 

フリーミアムは今後のトレンドになる

今年のレポートで注目すべきトピックとしてあげられたのは、フリーミアムとデータ活用です。

フリーミアムは、昨今のネット系ビジネスの中でもは外せないビジネスモデルですが、SpotifyやZoom、Google Suiteのように、サービスを一部無料で提供し、有料サービスへの加入を促すこの仕組みは、広く無料の「利用者」を獲得し、その後課金できる「顧客」になってもらうということで、提供されるサービスによる顧客満足度が重要になってきます。

たとえば最近IPOを成功させたZoomは、ここ最近のIPO企業の中では、すでに利益を上げているとして注目されていますが、ネットプロモータースコアが他のサービスより圧倒的に高いそうです。

顧客満足度を高めるためのサービスに投資する一方、フリーミアムモデルを採用することで、顧客リードを獲得するための費用を大きく削減する、というアプローチです。

 

顧客満足度という観点から、STITCH FIXもレポートの中で紹介されています。こちらはフリーミアムモデルではありませんが、同社は、契約者に対して、プロのスタイリストとAIが選んだ服を数点、毎月送り、気に入ったものを買い取ってもらう、というビジネスモデルを展開しています。購入のコミットメントは無いので、その点では利用のハードルを低くしています。サービス開始時から、新たなファッションビジネスとして以前より注目されていましたが、現在では300万人まで会員数を伸ばしており、データに基づくパーソナライゼーションの精度を高め、高い利用率を実現しているようです。

 

フリーミアムなどの手法により、顧客にサービス利用のハードルを下げ、顧客満足度を高めていくことに注力することで、ビジネスをドライブさせていくというアプローチは、マーケティングコストの考え方も従来とは異なってきますので、私たちも十分注視しておく必要があります。

 

データエコノミーの本格化に向けて不可欠な視点

Internet Trendsからちょっと離れますが、データ活用に関して、日経新聞に興味深い記事がありました。「データGDP」日本は11位という記事で、アメリカのタフツ大学が調査発表した資料によれば、データエコノミーでリーダーシップを発揮している国の上位は、米国や中国、スイスや韓国であり、日本は11位に留まっているとのことです。

この評価の指標には、データのボリューム、利用数、利用者、データに対するアクセサビリティやコンプレクシティが挙げられるとのこと。こうした指標において、日本が低評価なのは、データの活用が非効率な状態になっており、特に政府が保有する情報へのアクセサビリティが低い点。

また、大企業がデータを独占していてスタートアップ企業がデータをうまく活用できていない、といった点も原因とみなされているようです。このような状況が続けば、「日本の今後の経済活動等に影響が及ぶおそれがあるのでは」との懸念もされているとか…。

 

これに関連して、他にも興味深い記事が出ていました。日本のある地方自治体では、データ活用を積極的に推進しているものの、本来狙ったターゲット層には全く活用されていないと。たとえばバスの乗車数をリアルタイムに発信しているにも関わらず、これを利用する若者が少なかったり、子育て支援のアプリを提供しているけれど必要としている子育て世代の認知度が低かったり。

つまり、行政側の目論見と想定される利用者との間にギャップが見られる、というわけです。こうしたミスマッチは、データエコノミーを推進していく上で、致命的だと言えます。

このようなケースを見ますと、私たちは、ユーザーニーズを見極め、顧客視点でのデータ活用を提案することを、より積極的に推し進める必要があると痛感します。

 

さて、データ活用について、Internet Trendsに戻ると、2000年以降、成長を続けている企業は「データプラミングツールを活用している」との指摘があります。「プラミング」とは、水道の配管のことですが、データを上手くコントロールしながら流していくようなツール、と解釈すれば良いかもしれません。データの収集からチャネルとのつながり、データオプティマイズも含めてきちんと連携させていくためのもので、ここでは、Salesforce、Slack、UiPath、Looker、Confluentなど様々なツールを活用して成功している企業事例が上げられています。データ活用のためのツールが数多くクラウドサービスとして提供される中で、こうしたツール活用の優劣がビジネスの成功を左右することにも繋がる、と言えそうです。

 

電通アイソバーとしては、顧客視点に立って「CX(カスタマー・エクスペリエンス)に合ったデータ活用が実現できているか?」「その際に、データをうまく活用するためのツールをどう選定し利用していくか?」を考え、提案することが重要だと考えています。