MaaS推進の前に日本が目を向けるべきこと

このところ「MaaS(Mobility as a Service)」への関心が一層高まっているように感じます。鉄道会社と航空会社の連携や、IT企業と自治体、IT企業と自動車メーカーの連携といったニュースが立て続けに報じられているのを目にした方も多いでしょう。

国内では、トヨタ&ソフトバンクの「MaaS連合」が注目を集めるなど、熱を帯びるMaaSですが、私たちも、この分野にどう貢献できるか、考えていく時期に来ていると考えています。

MaaSの取り組みは、世界中でおきていますが、日本の動きは、シンガポールやスウェーデンといったこの領域における先進諸国に比べて、「遅れている」と言わざるを得ない状況なようです。

北欧の大学の研究によれば、MaaSを実践するステップは、交通事業者間による「情報の統合」に始まり、「予約・決済の統合」「サービスの融合」「政策との統合(社会課題解決との統合)」へと発展していくと考えられますが、日本は、まだ最初の段階。しかし、諸外国の中には、ヘルシンキのWhimのようにサービスの融合レベルまで実現しているものもあります。

では、日本がこの分野を活発化していくにはどうすればいいか?

これを考える前に、“足下の状況”を見てみましょう。

 

CX(カスタマーエクスペリエンス)を良くしようという発想が感じられない日本の予約サイト

至近の例として、私が体験した“残念なCX”についてお伝えしましょう。

この夏、休暇をフランスで過ごそうと、空港に向かうべく交通機関のチケット予約をしようとした時のことです。

まず、パソコンで交通機関の予約サイトに飛び、チケット予約について調べてみました。すると「チケットレス申し込みがおトク」というリンクが。確かに、価格は200円ほど安く設定されています。「これはいい!」とクリックすると、なぜかこの交通機関のサイトから別の購入サイトに遷移することに…。

では、その購入サイトでそのまま席の予約ができるかというと、できないのです!

実は、割引はスマホからの予約のみ。もちろんそのような説明がサイト上にはあるのですが、情報量が多いサイトゆえに、そのことに簡単に気がつくのは難しそうです。結局、スマホから検索し直して、チケットレスで予約はできたのですが、正直、残念な気持ちになります。

この交通機関のサイトは少なくともこの10年、前述のように自社のサイトとチケット予約のサイトが統合できていない状態が続いています。また、ユーザーIDの統合もされておらず、利用者にとって非常に複雑な仕様になっています。これでは良質なCXをもたらすことはほぼ不可能と言えるでしょう。

「日本人である私がたくさん疑問を感じる仕組みなのだから、海外からのお客様がこの交通機関を使おうとすると、さぞ大変な思いをするだろうな」と、英語版も見てみることにしました。

すると、この交通機関のTOPページにはびっくりするほどたくさんの情報が盛り込まれていました。これではすぐに知りたい情報にたどり着くのは困難なはず。しかも、チケットに関しては「券売機で買える」という情報だけが…。なぜ、オンラインで購入できないのか、首をひねりたくもなります。

実際、私は、いつも空港でたくさんの外国人観光客が購入窓口や券売機に並んでいるのを見かけます。かつてその列に並んだこともありますが、日本人だけの列と違い、券売機の前で迷う人も多数いて、思いのほか時間がかかり、乗りたい電車を逃したこともありました。


Google Mapさえ使えれば、すべての交通手段の予約が可能

さて一方、フランスでの滞在中、モン・サン・ミッシェルまで足を伸ばそう、ということになり、パリからの行き方を調べてみました。

そこで、行き方をGoogle検索してみたところ、検索結果の1ページ目にはほぼオンラインチケット申し込みのリンクが揃っていました。これは、日本では見られないものです。

Google Mapの検索結果

 

「パリからモン・サン・ミッシェルへの道のり」検索結果 ほとんどが予約サイト

検索結果の中からひとつのサイトを選んで、チケット予約をしようとすると、そこではバスと列車がいっぺんに予約できるようになっていました。パリからモン・サン・ミッシェルまでは、ツアーバス以外は、鉄道とバスの組み合わせで行くのが主流のようで、利用する交通手段それぞれの予約を別々に行なうことを想定していた私は、この便利さには、感心しました。

検索結果の中から「RailEuropa」に遷移すると、日本語で予約が可能

その後調べてみると、このような便利なサービスはフランスに限ったことではなく、ドイツなどでも同様です。航空会社、バス会社、鉄道会社ほか、複数の企業が連携して利便性を高めることが、普通にオンライン上で実現されています。

またパリ滞在中、市内の移動にはGoogle Mapが欠かせません。そして行き先を検索すると、メトロなどの公共交通機関に加え、Uberや新興の電気スクーターのLIMEといった代替手段も提示され、アプリへのリンクで予約もスムーズにできるようになっていました。

列車とバス以外の交通手段とその予約も可能に

つまり、パリのような都市では「Google Mapが使えさえすれば、移動の心配はほとんどない」というわけです。

はじめに「海外では日本よりMaaSが進んでいる」と紹介しましたが、このように、すでに企業間の連携が具体的に始まっており、利用者がwebやモバイルで簡単にそのサービスを活用できる環境が整っているからこそ、取り組みがスムーズに進んでいるのかもしれません。

 

もう一例、フィンランドの「whim」を挙げておきましょう。

このアプリには、様々な交通手段の予約システムが統合されていて、自分が行きたい場所を入力しさえすれば、経路と交通手段の提案がなされます。もちろん、そこで予約も可能です。

「whim」のファウンダーは、長らく交通とITに関する様々なサービス開発に関わっていて、直前は産学官の高度道路交通システムのコンソーシアムの代表を務めていたとのこと。そのため、マイカー依存に陥っていたヘルシンキ市民を公共交通機関の利用へとシフトさせたいと考えていた中央官庁の協力も得られ、その大義のもと、利害関係が異なる複数の企業も好意的に参加してくれたのかもしれません。逆に、同サービスはグローバル展開を進めていますが、ステークホルダー間の利害調整がボトルネックになっているとの話も聞こえてきます。

 

現在の利便性に満足せず、CXの視点で考えることが求められている

では、再び日本の現状を見てみましょう。

こうしたサービスが有効に活用されるであろう都市部では、公共交通機関の利用度も高く、高いサービスレベルにあります。マイカー依存の問題という話も聞こえてきません。また、Suicaなど電子マネーによる公共交通機関の決済は共通化が進み、利便性も高い状況にあると思います。では、Maasのニーズはあるのでしょうか?

私たちの日常生活の顧客体験は、スマホとクラウドサービスによって日々変化を遂げています。その中で、顧客が期待するCXのレベルも日々上がっていると言えます。海外旅行でオンラインサービスの便利さを体感したら、日本でも同様のサービスを期待するのは、当然のことです。Suicaなどオフラインでのサービスレベルが高いだけに、オンラインをベースとしたCXがイマイチなのは、なんとも残念なことであります。ハード偏重でソフトが出遅れた他の産業に似た印象を受けます。

そしてまた、観光立国を目指す日本であれば、グローバルスタンダードなCXを公共交通機関で提供することは、必須の社会課題だと考えるべきではないでしょうか?

人口減少が進み市場の縮小化が避けられない現状を前に、新たな収益モデルを見付けなければならない、という環境の中で新たな価値を生み出す為にも、取り組むべきテーマだと思います。

私たちは、こうしたところに「CX目線でMaaSの取り組みを加速させるにはどうすればいいか?」を提案することで、企業の課題を解決し、社会に貢献できるかもしれないと考えています。

「インターネット・トレンド2019」の注目点

 

クイーン・オブ・インターネットこと、メアリー・ミーカー氏による『インターネット・トレンド 2019』が公開されていますが、毎年この時期に恒例となっているこのレポートには、11のテーマが挙げられており、インターネットやテクノロジー関連だけでなく米国内の移民問題やヘルスケアに関する課題、米中問題などについても語られています。

ここでは、このレポートから私が特に注目している点を紹介したいと思います。

 

インターネット関連ビジネスは、依然多くが成長分野として力強い

まず、米国国内のレポートではありますが、Eコマースの成長は12.4%と引き続き力強い成長を遂げていることが指摘されています。リテールセールスの成長率が2%程度なことと比較すると、その伸び率は相当なものだと言えるでしょう。

インターネット広告への出稿については、前年比で25%の伸びであったと記されています。3〜4年の中期視点で見ても、その成長率は20%なので、インターネット広告は依然、大きな成長分野です。ただ、一方で日本のインターネット広告の成長は2桁成長はしているものの、ここまでではなく、過去数年、数ポイント程度下回り続けています。どこに違いがあるか、我々は認識を深める必要があるでしょう。

ただし、インターネット広告にも変調も見られています。グローバルでのレポートでは、たとえば、GoogleやFacebookの二強の成長はやや鈍化しており、Amazonやツイッター、Pinterestの伸びの方が強い、という傾向が見られると分析されています。GDPRほか、各国が個人情報保護の法令を強化する今日、この2社の評価がどのように変化していくか、引き続き注視していくべきでしょう。

また消費者の利用時間で見ると、主要プラットフォームの中で最も利用時間が伸びているのが、YouTubeとInstagram。動画やビジュアルコンテンツがマーケットを牽引している状況が伺えます。

 

フリーミアムは今後のトレンドになる

今年のレポートで注目すべきトピックとしてあげられたのは、フリーミアムとデータ活用です。

フリーミアムは、昨今のネット系ビジネスの中でもは外せないビジネスモデルですが、SpotifyやZoom、Google Suiteのように、サービスを一部無料で提供し、有料サービスへの加入を促すこの仕組みは、広く無料の「利用者」を獲得し、その後課金できる「顧客」になってもらうということで、提供されるサービスによる顧客満足度が重要になってきます。

たとえば最近IPOを成功させたZoomは、ここ最近のIPO企業の中では、すでに利益を上げているとして注目されていますが、ネットプロモータースコアが他のサービスより圧倒的に高いそうです。

顧客満足度を高めるためのサービスに投資する一方、フリーミアムモデルを採用することで、顧客リードを獲得するための費用を大きく削減する、というアプローチです。

 

顧客満足度という観点から、STITCH FIXもレポートの中で紹介されています。こちらはフリーミアムモデルではありませんが、同社は、契約者に対して、プロのスタイリストとAIが選んだ服を数点、毎月送り、気に入ったものを買い取ってもらう、というビジネスモデルを展開しています。購入のコミットメントは無いので、その点では利用のハードルを低くしています。サービス開始時から、新たなファッションビジネスとして以前より注目されていましたが、現在では300万人まで会員数を伸ばしており、データに基づくパーソナライゼーションの精度を高め、高い利用率を実現しているようです。

 

フリーミアムなどの手法により、顧客にサービス利用のハードルを下げ、顧客満足度を高めていくことに注力することで、ビジネスをドライブさせていくというアプローチは、マーケティングコストの考え方も従来とは異なってきますので、私たちも十分注視しておく必要があります。

 

データエコノミーの本格化に向けて不可欠な視点

Internet Trendsからちょっと離れますが、データ活用に関して、日経新聞に興味深い記事がありました。「データGDP」日本は11位という記事で、アメリカのタフツ大学が調査発表した資料によれば、データエコノミーでリーダーシップを発揮している国の上位は、米国や中国、スイスや韓国であり、日本は11位に留まっているとのことです。

この評価の指標には、データのボリューム、利用数、利用者、データに対するアクセサビリティやコンプレクシティが挙げられるとのこと。こうした指標において、日本が低評価なのは、データの活用が非効率な状態になっており、特に政府が保有する情報へのアクセサビリティが低い点。

また、大企業がデータを独占していてスタートアップ企業がデータをうまく活用できていない、といった点も原因とみなされているようです。このような状況が続けば、「日本の今後の経済活動等に影響が及ぶおそれがあるのでは」との懸念もされているとか…。

 

これに関連して、他にも興味深い記事が出ていました。日本のある地方自治体では、データ活用を積極的に推進しているものの、本来狙ったターゲット層には全く活用されていないと。たとえばバスの乗車数をリアルタイムに発信しているにも関わらず、これを利用する若者が少なかったり、子育て支援のアプリを提供しているけれど必要としている子育て世代の認知度が低かったり。

つまり、行政側の目論見と想定される利用者との間にギャップが見られる、というわけです。こうしたミスマッチは、データエコノミーを推進していく上で、致命的だと言えます。

このようなケースを見ますと、私たちは、ユーザーニーズを見極め、顧客視点でのデータ活用を提案することを、より積極的に推し進める必要があると痛感します。

 

さて、データ活用について、Internet Trendsに戻ると、2000年以降、成長を続けている企業は「データプラミングツールを活用している」との指摘があります。「プラミング」とは、水道の配管のことですが、データを上手くコントロールしながら流していくようなツール、と解釈すれば良いかもしれません。データの収集からチャネルとのつながり、データオプティマイズも含めてきちんと連携させていくためのもので、ここでは、Salesforce、Slack、UiPath、Looker、Confluentなど様々なツールを活用して成功している企業事例が上げられています。データ活用のためのツールが数多くクラウドサービスとして提供される中で、こうしたツール活用の優劣がビジネスの成功を左右することにも繋がる、と言えそうです。

 

電通アイソバーとしては、顧客視点に立って「CX(カスタマー・エクスペリエンス)に合ったデータ活用が実現できているか?」「その際に、データをうまく活用するためのツールをどう選定し利用していくか?」を考え、提案することが重要だと考えています。