MaaS推進の前に日本が目を向けるべきこと

このところ「MaaS(Mobility as a Service)」への関心が一層高まっているように感じます。鉄道会社と航空会社の連携や、IT企業と自治体、IT企業と自動車メーカーの連携といったニュースが立て続けに報じられているのを目にした方も多いでしょう。

国内では、トヨタ&ソフトバンクの「MaaS連合」が注目を集めるなど、熱を帯びるMaaSですが、私たちも、この分野にどう貢献できるか、考えていく時期に来ていると考えています。

MaaSの取り組みは、世界中でおきていますが、日本の動きは、シンガポールやスウェーデンといったこの領域における先進諸国に比べて、「遅れている」と言わざるを得ない状況なようです。

北欧の大学の研究によれば、MaaSを実践するステップは、交通事業者間による「情報の統合」に始まり、「予約・決済の統合」「サービスの融合」「政策との統合(社会課題解決との統合)」へと発展していくと考えられますが、日本は、まだ最初の段階。しかし、諸外国の中には、ヘルシンキのWhimのようにサービスの融合レベルまで実現しているものもあります。

では、日本がこの分野を活発化していくにはどうすればいいか?

これを考える前に、“足下の状況”を見てみましょう。

 

CX(カスタマーエクスペリエンス)を良くしようという発想が感じられない日本の予約サイト

至近の例として、私が体験した“残念なCX”についてお伝えしましょう。

この夏、休暇をフランスで過ごそうと、空港に向かうべく交通機関のチケット予約をしようとした時のことです。

まず、パソコンで交通機関の予約サイトに飛び、チケット予約について調べてみました。すると「チケットレス申し込みがおトク」というリンクが。確かに、価格は200円ほど安く設定されています。「これはいい!」とクリックすると、なぜかこの交通機関のサイトから別の購入サイトに遷移することに…。

では、その購入サイトでそのまま席の予約ができるかというと、できないのです!

実は、割引はスマホからの予約のみ。もちろんそのような説明がサイト上にはあるのですが、情報量が多いサイトゆえに、そのことに簡単に気がつくのは難しそうです。結局、スマホから検索し直して、チケットレスで予約はできたのですが、正直、残念な気持ちになります。

この交通機関のサイトは少なくともこの10年、前述のように自社のサイトとチケット予約のサイトが統合できていない状態が続いています。また、ユーザーIDの統合もされておらず、利用者にとって非常に複雑な仕様になっています。これでは良質なCXをもたらすことはほぼ不可能と言えるでしょう。

「日本人である私がたくさん疑問を感じる仕組みなのだから、海外からのお客様がこの交通機関を使おうとすると、さぞ大変な思いをするだろうな」と、英語版も見てみることにしました。

すると、この交通機関のTOPページにはびっくりするほどたくさんの情報が盛り込まれていました。これではすぐに知りたい情報にたどり着くのは困難なはず。しかも、チケットに関しては「券売機で買える」という情報だけが…。なぜ、オンラインで購入できないのか、首をひねりたくもなります。

実際、私は、いつも空港でたくさんの外国人観光客が購入窓口や券売機に並んでいるのを見かけます。かつてその列に並んだこともありますが、日本人だけの列と違い、券売機の前で迷う人も多数いて、思いのほか時間がかかり、乗りたい電車を逃したこともありました。


Google Mapさえ使えれば、すべての交通手段の予約が可能

さて一方、フランスでの滞在中、モン・サン・ミッシェルまで足を伸ばそう、ということになり、パリからの行き方を調べてみました。

そこで、行き方をGoogle検索してみたところ、検索結果の1ページ目にはほぼオンラインチケット申し込みのリンクが揃っていました。これは、日本では見られないものです。

Google Mapの検索結果

 

「パリからモン・サン・ミッシェルへの道のり」検索結果 ほとんどが予約サイト

検索結果の中からひとつのサイトを選んで、チケット予約をしようとすると、そこではバスと列車がいっぺんに予約できるようになっていました。パリからモン・サン・ミッシェルまでは、ツアーバス以外は、鉄道とバスの組み合わせで行くのが主流のようで、利用する交通手段それぞれの予約を別々に行なうことを想定していた私は、この便利さには、感心しました。

検索結果の中から「RailEuropa」に遷移すると、日本語で予約が可能

その後調べてみると、このような便利なサービスはフランスに限ったことではなく、ドイツなどでも同様です。航空会社、バス会社、鉄道会社ほか、複数の企業が連携して利便性を高めることが、普通にオンライン上で実現されています。

またパリ滞在中、市内の移動にはGoogle Mapが欠かせません。そして行き先を検索すると、メトロなどの公共交通機関に加え、Uberや新興の電気スクーターのLIMEといった代替手段も提示され、アプリへのリンクで予約もスムーズにできるようになっていました。

列車とバス以外の交通手段とその予約も可能に

つまり、パリのような都市では「Google Mapが使えさえすれば、移動の心配はほとんどない」というわけです。

はじめに「海外では日本よりMaaSが進んでいる」と紹介しましたが、このように、すでに企業間の連携が具体的に始まっており、利用者がwebやモバイルで簡単にそのサービスを活用できる環境が整っているからこそ、取り組みがスムーズに進んでいるのかもしれません。

 

もう一例、フィンランドの「whim」を挙げておきましょう。

このアプリには、様々な交通手段の予約システムが統合されていて、自分が行きたい場所を入力しさえすれば、経路と交通手段の提案がなされます。もちろん、そこで予約も可能です。

「whim」のファウンダーは、長らく交通とITに関する様々なサービス開発に関わっていて、直前は産学官の高度道路交通システムのコンソーシアムの代表を務めていたとのこと。そのため、マイカー依存に陥っていたヘルシンキ市民を公共交通機関の利用へとシフトさせたいと考えていた中央官庁の協力も得られ、その大義のもと、利害関係が異なる複数の企業も好意的に参加してくれたのかもしれません。逆に、同サービスはグローバル展開を進めていますが、ステークホルダー間の利害調整がボトルネックになっているとの話も聞こえてきます。

 

現在の利便性に満足せず、CXの視点で考えることが求められている

では、再び日本の現状を見てみましょう。

こうしたサービスが有効に活用されるであろう都市部では、公共交通機関の利用度も高く、高いサービスレベルにあります。マイカー依存の問題という話も聞こえてきません。また、Suicaなど電子マネーによる公共交通機関の決済は共通化が進み、利便性も高い状況にあると思います。では、Maasのニーズはあるのでしょうか?

私たちの日常生活の顧客体験は、スマホとクラウドサービスによって日々変化を遂げています。その中で、顧客が期待するCXのレベルも日々上がっていると言えます。海外旅行でオンラインサービスの便利さを体感したら、日本でも同様のサービスを期待するのは、当然のことです。Suicaなどオフラインでのサービスレベルが高いだけに、オンラインをベースとしたCXがイマイチなのは、なんとも残念なことであります。ハード偏重でソフトが出遅れた他の産業に似た印象を受けます。

そしてまた、観光立国を目指す日本であれば、グローバルスタンダードなCXを公共交通機関で提供することは、必須の社会課題だと考えるべきではないでしょうか?

人口減少が進み市場の縮小化が避けられない現状を前に、新たな収益モデルを見付けなければならない、という環境の中で新たな価値を生み出す為にも、取り組むべきテーマだと思います。

私たちは、こうしたところに「CX目線でMaaSの取り組みを加速させるにはどうすればいいか?」を提案することで、企業の課題を解決し、社会に貢献できるかもしれないと考えています。

CMOは悩んでいる〜「CMO survey 2019」〜

 

電通アイソバーも所属する電通イージス・ネットワークから、今年も「CMO survey 2019」が発表されました。全世界の1000名あまりのCMO(Chief Marketing Officer)にインタビュー調査した結果は、さまざまな示唆を与えてくれるものです。今回はこれについて、お伝えします。

 

マーケティング活動は成長のドライバー! だけれど…

「CMO survey 2019」の内容に踏み込む前に、McKinsey & Company社が発表した調査から、企業あるいはCEOからCMOがどのように評価されているのか、見ておきましょう。

調査によると、CEOの83%が「マーケティング活動は明らかに成長のドライバーだ」と考えているようです。一方で、23%が「社内のマーケティング組織は成長に向けての指針を示せていない」と回答したとあります。リンク 引用元:McKinsey & Company社

 

「CMO survey 2019」から読み解くCMOの悩み

では、会社の成長ドライバーとしての活躍を期待されるCMOはどのようなことを考え、どんな悩みを抱えているのでしょうか? 「CMO survey 2019」から読み解いていきましょう。

まず、CMOたちは、マーケティング活動はトランスフォーメーションやイノベーションのエンジンになり得ると信じ、79%が「社内のデジタル領域において、最適化ではなく、トランスフォーメーションを起こさなければならない」と考えているようです。また、80%が「自社の製品やソリューションのイノベーションに責任を持たなければならない」と強く感じているとの回答が得られました。

Source: Dentsu Aegis Network CMO Survey 2019

しかし、先述のようなCMOの意志やビジネス上の使命感、は必ずしも組織にとっての主要な役割とは見なされていないようです。

 

Source: Dentsu Aegis Network CMO Survey 2019

マーケティング活動やそれを担うCMOに対してより求められている成果は、ビジネスの成長につながるマーケティング活動や市場のトレンドや消費者心理を把握することであり、劇的なイノベーションやビジネスの転換への貢献はまだまだ優先度が低いようです。この意向からは、マーケティング部門が従来から期待されている役割に、縛られている印象を受けます。

では、CMOの悩みは、より深く具体的に見ていくと、どのようなものなのでしょうか。彼らの悩みは、仕事を進める上でのKPIの内容であり、これまでの戦略設計や考え方が時代に合わなくなってきたことであり、短期のROIに注目されすぎて長期戦略を描けなくなっていることだと読み取れます。

 

Source: Dentsu Aegis Network CMO Survey 2019

ちなみに、大手コンサルティンググループが出した調査結果によると、「長期戦略を描いている企業の方が、そうでない企業より5倍程度高い売上を得ている」とのこと。つまり、激変する世の中に応じてどんどん戦略を変えるよりも長期的な視点を持つ方が結果的に事業成長が実現されている、というわけです。

それにも関わらず、目先のことにとらわれ過ぎて、トランスフォーメーションやイノベーションに力を注がないとしたら、それは非常に残念なことです。

 

CMOに期待される新たな役割にエージェンシーはどう応えるか?

一方、マーケティング部門やCMOの役割が、より重要度を増してくる現在、CMOは社内において、CFOやCOO、CSOやCEOなどあらゆる“C”が付くひと達をインテグレートするよう期待されています。事業の根幹に関わる役割として、社内の様々な責任者と連携していくことが求められているのです。しかし、「CMO survey 2019」によると、実際にそれができていると感じているのは43%程度に留まっています。

 

では、そうした様々な悩みを抱えるCMOに、エージェンシーは何をすべきなのでしょうか?エージェンシーにも、多様な機能を統合したマーケティングサービスの提供が期待されるようになる昨今、今回の調査では、その実現にはまだ半数以上の人たちが信じていません。また、この点が、近年コンサルティングファームとエージェンシーがライバル関係になっている理由だと考えられます。それだけに、こうした期待に答えうる組織やサービスの開発が喫緊の課題でしょう。

*CMO survey 2019の資料ダウンロードはこちら

 

 

 

「インターネット・トレンド2019」の注目点

 

クイーン・オブ・インターネットこと、メアリー・ミーカー氏による『インターネット・トレンド 2019』が公開されていますが、毎年この時期に恒例となっているこのレポートには、11のテーマが挙げられており、インターネットやテクノロジー関連だけでなく米国内の移民問題やヘルスケアに関する課題、米中問題などについても語られています。

ここでは、このレポートから私が特に注目している点を紹介したいと思います。

 

インターネット関連ビジネスは、依然多くが成長分野として力強い

まず、米国国内のレポートではありますが、Eコマースの成長は12.4%と引き続き力強い成長を遂げていることが指摘されています。リテールセールスの成長率が2%程度なことと比較すると、その伸び率は相当なものだと言えるでしょう。

インターネット広告への出稿については、前年比で25%の伸びであったと記されています。3〜4年の中期視点で見ても、その成長率は20%なので、インターネット広告は依然、大きな成長分野です。ただ、一方で日本のインターネット広告の成長は2桁成長はしているものの、ここまでではなく、過去数年、数ポイント程度下回り続けています。どこに違いがあるか、我々は認識を深める必要があるでしょう。

ただし、インターネット広告にも変調も見られています。グローバルでのレポートでは、たとえば、GoogleやFacebookの二強の成長はやや鈍化しており、Amazonやツイッター、Pinterestの伸びの方が強い、という傾向が見られると分析されています。GDPRほか、各国が個人情報保護の法令を強化する今日、この2社の評価がどのように変化していくか、引き続き注視していくべきでしょう。

また消費者の利用時間で見ると、主要プラットフォームの中で最も利用時間が伸びているのが、YouTubeとInstagram。動画やビジュアルコンテンツがマーケットを牽引している状況が伺えます。

 

フリーミアムは今後のトレンドになる

今年のレポートで注目すべきトピックとしてあげられたのは、フリーミアムとデータ活用です。

フリーミアムは、昨今のネット系ビジネスの中でもは外せないビジネスモデルですが、SpotifyやZoom、Google Suiteのように、サービスを一部無料で提供し、有料サービスへの加入を促すこの仕組みは、広く無料の「利用者」を獲得し、その後課金できる「顧客」になってもらうということで、提供されるサービスによる顧客満足度が重要になってきます。

たとえば最近IPOを成功させたZoomは、ここ最近のIPO企業の中では、すでに利益を上げているとして注目されていますが、ネットプロモータースコアが他のサービスより圧倒的に高いそうです。

顧客満足度を高めるためのサービスに投資する一方、フリーミアムモデルを採用することで、顧客リードを獲得するための費用を大きく削減する、というアプローチです。

 

顧客満足度という観点から、STITCH FIXもレポートの中で紹介されています。こちらはフリーミアムモデルではありませんが、同社は、契約者に対して、プロのスタイリストとAIが選んだ服を数点、毎月送り、気に入ったものを買い取ってもらう、というビジネスモデルを展開しています。購入のコミットメントは無いので、その点では利用のハードルを低くしています。サービス開始時から、新たなファッションビジネスとして以前より注目されていましたが、現在では300万人まで会員数を伸ばしており、データに基づくパーソナライゼーションの精度を高め、高い利用率を実現しているようです。

 

フリーミアムなどの手法により、顧客にサービス利用のハードルを下げ、顧客満足度を高めていくことに注力することで、ビジネスをドライブさせていくというアプローチは、マーケティングコストの考え方も従来とは異なってきますので、私たちも十分注視しておく必要があります。

 

データエコノミーの本格化に向けて不可欠な視点

Internet Trendsからちょっと離れますが、データ活用に関して、日経新聞に興味深い記事がありました。「データGDP」日本は11位という記事で、アメリカのタフツ大学が調査発表した資料によれば、データエコノミーでリーダーシップを発揮している国の上位は、米国や中国、スイスや韓国であり、日本は11位に留まっているとのことです。

この評価の指標には、データのボリューム、利用数、利用者、データに対するアクセサビリティやコンプレクシティが挙げられるとのこと。こうした指標において、日本が低評価なのは、データの活用が非効率な状態になっており、特に政府が保有する情報へのアクセサビリティが低い点。

また、大企業がデータを独占していてスタートアップ企業がデータをうまく活用できていない、といった点も原因とみなされているようです。このような状況が続けば、「日本の今後の経済活動等に影響が及ぶおそれがあるのでは」との懸念もされているとか…。

 

これに関連して、他にも興味深い記事が出ていました。日本のある地方自治体では、データ活用を積極的に推進しているものの、本来狙ったターゲット層には全く活用されていないと。たとえばバスの乗車数をリアルタイムに発信しているにも関わらず、これを利用する若者が少なかったり、子育て支援のアプリを提供しているけれど必要としている子育て世代の認知度が低かったり。

つまり、行政側の目論見と想定される利用者との間にギャップが見られる、というわけです。こうしたミスマッチは、データエコノミーを推進していく上で、致命的だと言えます。

このようなケースを見ますと、私たちは、ユーザーニーズを見極め、顧客視点でのデータ活用を提案することを、より積極的に推し進める必要があると痛感します。

 

さて、データ活用について、Internet Trendsに戻ると、2000年以降、成長を続けている企業は「データプラミングツールを活用している」との指摘があります。「プラミング」とは、水道の配管のことですが、データを上手くコントロールしながら流していくようなツール、と解釈すれば良いかもしれません。データの収集からチャネルとのつながり、データオプティマイズも含めてきちんと連携させていくためのもので、ここでは、Salesforce、Slack、UiPath、Looker、Confluentなど様々なツールを活用して成功している企業事例が上げられています。データ活用のためのツールが数多くクラウドサービスとして提供される中で、こうしたツール活用の優劣がビジネスの成功を左右することにも繋がる、と言えそうです。

 

電通アイソバーとしては、顧客視点に立って「CX(カスタマー・エクスペリエンス)に合ったデータ活用が実現できているか?」「その際に、データをうまく活用するためのツールをどう選定し利用していくか?」を考え、提案することが重要だと考えています。

「VIVA TECHNOLOGY」レポート 〜主要テーマは、グローバル企業とスタートアップの協働と大手プラットフォーマーへのアンチテーゼ〜

5月16日から5月18日の3日間、ヨーロッパ最大級のTech系イベント「VIVA TECHNOLOGY」が今年もフランス・パリで開催されました。世界各国から12万人以上を動員した本イベントに私も足を運んでみましたので、現地の様子をレポートします。

VIVA TECHNOLOGYについて

「VIVA TECHNOLOGY」は、日本ではそれほど知名度が高いイベントではないかもしれませんが、たとえばマクロン大統領が通商大臣だったころから今もなお深くコミットするなど、フランスでは国の威信をかけた取り組みと位置付けられ、今年は12万人超の来場者を集める欧州最大のTechイベントです。

Tech領域のトレンドや新技術、企業の活用例が披露される 欧州最大級のTechイベント「VIVA TECHNOLOGY」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tech領域のトレンドや新技術、企業の活用例が披露されるだけでなく、中心テーマのひとつであるスタートアップ支援の名の下、「NEXT EUROPEAN UNICORN AWARDS」と題した大型スタートアップの表彰が行なわれたり、ハッカソンでイノベーティブな発想を発掘する機会があったりもします。

訪れてみれば、業界関係者ならずとも大変刺激的な経験ができるでしょう。

https://vivatechnology.com/

 

国内外の政治家、業界を超えた名だたる企業、新進気鋭のスタートアップが一緒になって議論する場

本イベントは、最近の大型Techイベント同様、展示会とカンファレンスから構成されており、カンファレンス会場では、今年もたくさんのセッションが行なわれました。

ここでまず注目したいのは、登壇者のバリエーションの豊かさです。

たとえば、マクロン仏大統領がスタートアップの経営者たちと対談したセッションもあれば、カナダのトルドー首相が、SNSを介したフェイクニュースの拡散やテロを煽動するようなコンテンツで損なわれたネットの信頼回復に向けて、新たにDigital Charter(デジタル憲章)を制定したと発表するセッションも。また、フランスというお国柄か、セネガルとルワンダというアフリカの大統領が登壇し、eGovernmentについて語るといった光景も、フランスの過去の歴史と次のビジネスを見据えたプログラムとして、興味深いものでした。

Tech系企業の主要メンバーやスタートアップだけでなく、国内外の政治家もセッションに登壇してお互いに意見を交わす様子は日本ではなかなかお目にかかれない光景でしょう。

 

デジタルテクノロジーはいかに社会に貢献できるか?

Tech系のイベントではありますが、多くの政治家が登壇することにも表れているように、ビジネスの話題以上に、プライバシーや環境問題など社会課題が語れれることが多い印象を受けました。企業からのプレゼンテーションも、そうした文脈が強く感じられました。

今回のイベント全体を通じて、GoogleFacebookといった大手プラットフォーマーへの批判の声が非常大きかったことは、強く印象に残りました。

特に、彼らのビジネスモデルについて「個人情報を得てそれを活用し、富を集めている」という指摘が声高になされ、そのアンチテーゼとして「社会に対してどのようにテクノロジーが貢献するか? そのリスクからいかに市民を守るか?」といったテーマが盛んに議論されていました。GDPRを大きなきっかけとして、各国で大手プラットフォーマーへの風当たりが強くなってきた現在、その議論をリードしたEUが自信を取り戻している、そんな風にも感じられました。

他方、ヘルスケアや環境へのインパクト、フードセキュリティや犯罪防止といった社会問題に対するテクノロジーの活用については踏み込んだアイデアが挙げられ、AIやマシンラーニング、データ活用が社会問題解決に貢献できるのではないか? とか、今後5年程度でどのような社会的インパクトを与えられるのか? といったことが今日の主要テーマとされていました。

この文脈で、フランスの製薬メーカーであるサノフィが意欲的な発表をしていたのでご紹介しましょう。ご存知の通り、サノフィのような製薬メーカーは、新薬を世に出すまでに、研究開発から膨大な数のテスト等を行なうわけで、当然そこには多くの時間と莫大なコストが費やされてきました。

しかし、「今後はAIのデータ解析によって開発効率を上げていけるはずだ」とサノフィは言います。そうなれば、より早く新薬を発表することができ、世界の疾病対策や人々の健康に貢献できるだろう、というわけです。最後に同社は、「それを実現させるためにも、データドリブンカンパニーになる!」と宣言していました。これは製薬会社の新たな有り様を想起させる発表だと言えるでしょう。

 

幅広い業界業種がブースを展開した展示会ゾーン

EU圏内やアフリカ圏だけでなく、中国や韓国、中南米からも本イベントに参加する企業や著名人が多く見られました。いくつかご紹介しましょう。

 

たとえば、いまEスクーターの販売を手がけている”世界最速の男”ウサイン・ボルト氏は、自社の製品を持ち込んでフランス国内でのPRを始めていました。また、中国のTech企業であるアリババのジャック・マー氏もセッションに登壇していましたし、報道を賑わせている”渦中の企業”ファーウェイもセッションで存在感を放っていました。

 

展示会には世界中のほとんどのクラウド&IT企業が出展していると言っても過言ではないほど様々な企業が並んでいましたし、こうしたイベントでは、これまであまり見られなかったコンサル会社もブースを出して講演会を行なっていました。

日本関連ではソフトバンク・ロボティクスが出展しており、ペッパーくんと記念撮影する来場者も多く見られました。

 

お膝元のフランス企業については、自動車産業からルノー、シトロエンが。観光業からはアコーホテルズ、放送業界からはTF1グループ、フランス郵政公社のラ・ポストやフランス国鉄(SNCF)といった国家の基幹産業が軒並み大きなブースを構えていました。

 

ブランド企業とスタートアップの共同開発技術が実務レベルに

各ブースでは、ブランド企業とスタートアップがコラボレーションして新たな開発した事例がいくつも紹介されており、実際にそのテクノロジーに触れる機会もありました。

たとえば、LVMHのブースでは、液晶パネルを組み込んだLouis Vittonのバッグの展示や、顧客に最適な香水をレコメンドするVoice Chatによるインタラクティブな仕組みや、ミラーに仕組まれた画像解析によって、コスメティクスを推奨するといった、体験ブースに多くの人だかりができていました。

多くの来場者で溢れるLVMHブース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、ロレアルのブースでは、画面に顔を映しリップの色を重ねてシミュレーションし、気に入ったものを購入できるコスメの自動販売機を紹介されていましたし、デバイスで肌の色などをチェックしてそのひとにぴったりなファンデーションをオススメしてくれるような機能も紹介されていました。

こうしたラグジュアリーブランドやコスメティクスブランドによる、店頭での体験価値の向上に向けた取り組みの紹介は、非常に完成度の高いもので、早くからStartupを巻き込んでの研究開発に意欲的に取り組んでいることが伺えます。フランスの基幹産業の面目躍如といったところでしょうか。

ロレアルブースでは、マーケティングや製品開発に活用するツールとして、インスタグラムなどに投稿されている膨大な数の画像を鳥瞰的に把握・分類・解析してトレンドをダイナミックに把握するツールを紹介していました。AIによる画像解析を活用したこのツールは、すでに実装され、全社員がアクセス可能だという点は、驚きです。

AIによる画像解析を活用したツールの紹介

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ARの利活用の例としては、マジックリープが開発したという遠隔会議システムを欧州メガバンクのひとつBNPバリパが活用している、という事例が興味深いものでした。遠隔地同士の会議でも、ARを活用すればその場で対面しているような感覚で議論できる、というものです。

これを応用して、BNPバリパは、地図上の不動産物件の詳細をよりリアルな3D表現で確認できるシステムを活用しているとのこと。金融機関のような伝統的な業種はテクノロジーの活用が遅れている、としばしば指摘されることもありましたが、少なくともフランスではスタートアップと連携して生み出したテクノロジーを実務レベルで活用するまでに至っている、と言えそうです。

 

一部では「米国や中国の後塵を拝している」と指摘されていたEUが、行政トップの強いリーダーシップに後押しされてデジタルテクノロジー領域で復権をはかろうとしている様子がひしひしと伝わってきた本イベント。EUとして、AI領域に非常に注力していることや、スタートアップを育成しグローバル企業とのコラボレーションを強く推進していることがよく分かりました。果たして、このEUの取り組みが、いかなる成果をあげるか、同様に米中に遅れを取っている日本も注視していく必要があります。行政の産業育成への関与の仕方という点では、参考になる面があるのではないか、そんな気がします。

 

他方、デジタルテクノロジー領域のビジネスはルールなき開拓時代を終え、一定の規制の必要性が論じられ始めたことは注視すべきポイントです。

GDPR以降、EUは「この議論をリードしていく」という強い姿勢を示していますし、実際に世界各国に対して影響を強めているのは周知の通りであり、日本も当然その例外ではないでしょう。個人データ利用のルール改定や、大手テックプラットフォーマーへの課税問題など、デジタルマーケティングに影響を与えるうる政治的テーマに日本も深く関わりつつあります。

私たちも、こうした環境の変化を注視していく必要がありそうです。

 

 

Microsoft AzureにAIをのせたチャットボットサービスで顧客満足度を上げる

先日、アドビ システムズ様、日本マイクロソフト様と共催セミナー「カスタマーエクスペリエンスデーin 大阪」を開催いたしました。

その中で、日本マイクロソフト様が紹介されていたMicrosoft Azure*を基盤にAIサービスを乗せて展開したチャットボットサービスの事例が非常に興味深かったので、ここでもご紹介したいと思います。

 

日本マイクロソフト様

本ブログで紹介することをご快諾くださり誠にありがとうございます。またぜひご一緒できれば幸いです。

さて、以下は私が特に注目したトピックです。

 

顧客接点でのAI活用事例:進化するチャットボット

AI活用の中でも、コールセンターの業務をチャットボットに置き換えていく、というのは王道のやり方だと言えるでしょう。

セミナーでは、「コールセンタースタッフでは8時間くらいまでが対応上限であるところを、チャットボットを使って24時間対応できるようにしている」とのSBI リクイディティマーケット様の事例が紹介されていました。

同社だけでなく、こうした取り組みは着実に増えていると聞きます。

コールセンターに寄せられる質問内容は、「パスワードを忘れた」や「うまくアクセスできない」といった、サービスに関連する内容が多いと言われています。そうしたことにリアルタイムで対応できるようになれば、顧客満足度向上にもつながるでしょう。

他方、コールセンターには、さまざまな情報が集まるものです。データが無ければAIに学習させることもできません。それらのデータを常に蓄積させ、これをAIに学習させられる環境を構築していれば、チャットボットはどんどん賢くなっていけるはずなので、今後も早い進化が期待される分野だと思います。

 

SBI リクイディティマーケット様

人工知能 (AI) を活用した FX取引サービスの実現に向け、SBIリクイディティ・マーケット、SBI FXトレードと日本マイクロソフトが連携

https://news.microsoft.com/ja-jp/2017/02/15/170215-ai-sbi-microsoft/

事例ビデオ:

https://www.youtube.com/watch?time_continue=4&v=SxLp7bRD8FQ

 

前述のようなコールセンターだけでなく、まだ実証実験の段階も含め、最近は病院やホテル、大規模商業施設などのホスピタリティ系のサービスを提供する場面でもAIの活用が進んでいるようです。

近い将来、「ショッピングモール等の広大な敷地を有する場所で迷い、スタッフが見つからず途方に暮れる」といった心配がなくなるとしたら、顧客にとっての利便性がいま以上に高まることでしょう。

 

顧客接点でのAI活用事例:顧客に寄り添うチャットボット

大手コンビニチェーンを展開するローソン様の未来型コンビニに関する事例も紹介されていました。同社の取り組みは各種メディアでもよく取り上げられていますが、中でもLINE のチャットボット「ローソンクルーあきこちゃん」は特に有名ですね。

このあきこちゃん、ベースになっているのは高校生AIとして話題になった「りんなちゃん」なのだそうです。

りんなちゃんは、ご存知の通りMicrosoft社が高校生アカウントとして運用し、機械学習させていたAIです。ここで培った技術がクライアントに有効活用されている、というのは興味深いことですね。

ローソンの取り組みについては、MicrosoftAzureのサイトで詳しく紹介されているので、ぜひご一読ください。

 

ローソン様

▶もっと「人に近い」コンビニへ。ローソンの挑戦。その独自戦略とは?

https://www.microsoft.com/ja-jp/biz/nowon-azure/lawson.aspx

 

顧客接点でのAI活用事例:多言語対応のチャットボット

MicrosoftAzureの場合、日本語よりも外国語の方が実績は多いということで、旅行会社がAIを活用している事例も紹介されていました。なかには、日・英・中の3ヶ国語に対応するというケースもあるようです。

この事例は、海外のクライアントだけでなく、インバウンド需要に対応している企業にとっても一見の価値があるものだと思います。

MicrosoftAzureのサイトでは、JTB様の事例が取り上げられています。

2020年に向けて訪日外国人旅行客への対応を求める声はさらに高まることでしょう。そうした業界に携わる方にはとても参考になるのではないかと思います。

 

JTB

▶すべての訪日外国人の旅行客に満足を――AI や API エコノミーの仕組みを実装した観光支援アプリの提供で “インバウンド エコシステム” の実現を目指す、JTB

https://customers.microsoft.com/ja-jp/story/jtb-travel-azure-cognitive-bot-jp-japan

 

人材不足に対応するためのチャットボット活用

近年、主な働き手となる年齢層、いわゆる労働生産人口が減少していることが問題視されています。また、製造業を中心に、熟練者の技術を次世代の担い手に引き継ぎ切れないことが課題になっているとも聞かれます。

そうした問題に端を発する人材不足に加え、季節によって仕事のボリュームが大きく変動し、ある季節は仕事が過密状態になり働き手のワーク・ライフ・バランスが崩れたり、顧客へのサービスレベルが一定に保てなかったり、といった課題を抱える企業もあるようです。

セミナーでは、そんな課題を解決しようと取り組む企業として、空調機器の世界的メーカーであるダイキン様の事例が紹介されていました。

エアコンが故障し、修理の依頼が集中する時期と言えばやはり夏前から夏場だそうですが、これまではその依頼に対応し切れないケースもあったようです。

これを、チャットボットで「どこに問題がありますか?」というふうに確認をしていくことで素早く一次対応し、顧客の不安をなるべく早く解消できるよう取り組みを始めた、とのことです。

 

ダイキン様

▶エアコンの故障診断に Azure AI を活用したチャットボットを導入、自動応答で素早く対応することで顧客満足のさらなる向上へ

https://customers.microsoft.com/ja-jp/story/daikin-bot-framework-azure-luis-app-sql-database-jp-japan

故障診断にチャットボットを導入し自動応答で応対すること自体は技術的には難しくないことだと思います。

しかし、近年のエアコンなどの機器はIoT化しているので、たとえばエアコン側から故障や不具合のデータがセンターに送られ、その情報を元により高度なサービスを顧客に提供していくことも可能になっていくのだろうと考えられます。IoTとチャットボットとの連携は、今後大きく広がっていくと予想されます。

 

言語周りの処理能力が飛躍的に向上したことで活用の幅がさらに広がる

最近は、音声を認識して自動的にオーダーリストを作る、というAI活用の事例も出てきています。これは飲食業や小売業から製造業まで、幅広い業界にニーズがありそうです。

ただ、たとえば飲食店でオーダーをする際、「AセットとBセット」と言いながら、途中でオーダーや数量を変更する、といったことは多々あるもの。そのため、音声データをそのまま文字起こししたままの状態をオーダーリストとして送ってしまうと、結局のところどれが最終的なオーダーか分からず、現場を混乱させてしまうことにもなりかねません。

しかし、MicrosoftAzureを活用した事例では、「最終的にはこういうオーダーですよね」という“まとめの生成”まで対応できるようになっています。これなら、精度が上がることで、ひとのスタッフが対応するよりもオーダーミスを防ぐことにすらつながるかもしれません。

AI活用の方法については、しばらくの間「どう活用したらいいのか分からない」「本当に使えるのか?」など、その可能性がイマイチ掴みづらいと言われる時期がありました。しかし、近頃は確実に実践的に活用がなされるようになり、実績も増えてきたように感じます。

今回紹介したような新しい取り組みを知ると、より多様なアイデアが湧いてくるでしょうし、新しいチャレンジを提案する機会も増えていくのではないかと思います。

 

その他、注目したいMicrosoftAzureの事例

チャット以外にも、データ分析に活用されているのも、見逃せません。

 

エイベックス様

▶より満足度の高いライヴ イベントの実現に向け、AI を活用した来場者分析システムを開発

https://news.microsoft.com/ja-jp/2017/09/01/170901-avex-microsoft-faceapi/

事例ビデオ:

https://www.youtube.com/watch?v=j89-o9EqhmY

 

電通

▶電通がスタートした日本初の「人工知能型 OOH 広告」

https://customers.microsoft.com/en-us/story/dentsu-media-azure-jp-japan

事例ビデオ:

https://www.youtube.com/watch?v=gSdoMXitIvw

 

*MicrosoftAzure

ビジネス上の課題への対応を支援するために絶えず拡大を続けるクラウド サービスの集合体です。世界規模の巨大なネットワークに対し、お気に入りのツールやフレームワークを使ってアプリケーションを自在に構築、管理、デプロイすることができます。

https://azure.microsoft.com/ja-jp/overview/what-is-azure/ より)

 

全体最適を考えることが会社を強くする。では、全体最適とは?

経営者にとって、社員全員が会社の経営状況や全体が進む方向性に関心を持ち、当事者意識をもって積極的に日々の仕事を進めてくれるようになることは理想の姿です。

しかし、「社員一人ひとりにどうやってそのことを考えてもらうよう促すか」は、難しい課題でもあります。

 

そこで、ひとつの方法として、電通アイソバーでは、少しでも会社全体の動きを知るきっかけを得てもらえるよう、毎週月曜日に全員参加の朝会を実施しています。ここでは、先日話したスピーチについてご紹介したいと思います。

 

「出る杭=全体最適を考えている人」という発想

先日、元ソニーの方でコンサルティングをされている方の著書を読む機会があり、その中での「出る杭」の話に目が止まりました。

「『出るクイ』を求む!ーSONYは人を生かすー」

これは、ソニーが昭和44年に行った新聞広告のフレーズで、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、米国をはじめ海外市場に挑戦しようとする当時のSONYらしいキャッチコピーです。

日本では、「出る杭」と聞くと、他と異なる視点を持ち、ユニークな意見を提示したり、慣習にとらわれない推進力を持ち合わせる一方、組織の秩序をかき混ぜたり、慣習を度外視するためチームワークに摩擦を生じさせたりする存在にもなりうるとして、ポジティブな面とネガティブな面の双方のイメージがあるかと思います。

しかし、著者は少し違った視点で、「出る杭とは、全体最適を考えている人」と解釈をしています。

 

なぜ、全体最適を考える人が“異分子”になってしまうのか?

会社や組織が大きくなると、多くの場合、自分の受け持っている仕事以外が見えづらくなるものです。また、それを最適に進めようとするため、当然ながら「部分最適な考え方」になっていくものです。

 

そうした環境では、毛色の違った発言をする「出る杭」の存在は“異分子”のように感じてしまうかもしれません。しかし、もしその“異分子”の考え方が全体最適を目指したものであったなら、むしろ組織にとっては有益であると考えられるのではないでしょうか?

 

当時のソニーは、創業者である盛田さんの「Think Globally, Act Locally」という企業精神があり、これを言い換えて、全体最適を考えて部門で行動する、というようなカルチャーがあったようです。それゆえ、そうした自律的に行動できる「出る杭」を求めていたのだと感じました。私も、考え方には強く共感しますし、電通アイソバーも全体最適を目指して活発に議論する企業であってほしいと願っています。

 

全体最適を考えて行動するとはどういうことか

言葉だけで「全体最適を考えて行動する」と言われてもピンとこない人もいるかと思います。そこで、私のバックグラウンドを踏まえて、会社をオーケストラに見立てて考えを巡らせてみたいと思います。

 

会社がオーケストラとなると、指揮者は私であり、社員のみなさんは演奏者ということになります。

 

そこで質問です。

みなさんが「演奏者として大切にしないといけないこと」と考えるのは、次の3つのうちどれでしょうか?

1:楽譜を理解して暗譜する(楽譜の内容を完全に理解する)

2:指揮者の指示をひとつも見逃さずに捉え、従う

3:周りの団員の音に耳を傾ける

 

じつはこの質問には正解がありません。

ただ、一流になればなるほど「3が大事」と答えるのではないかと私は考えます。

 

ひとつ例を挙げてみましょう。

クラシック好きでなくても、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団という名前は聞いたことがあるかと思います。

世界的に有名な楽団ですが、これらは別名「指揮者泣かせ」と言われています。

それというのも、楽団には独自の持ち味や音色があるので、にわかに招聘された指揮者にはその良さを引き出すのが難しいからだそうです。

 

そうした強い個性やカラーを作り出せているというのは、裏を返せば、指揮者に頼らずとも団員が自らの組織を強くし、カラーを自律的に生み出している証拠だと言えるでしょう。

 

この背景には、記されている楽譜の内容も音やリズムでさえも異なる中で、他の楽器がどんな旋律を奏でているか注意深く聞き、全体にとって最適な演奏をしている、という事実があります。

 

これを再び会社の話に置き換えると、

他のひとの強みやどんなことに取り組んでいるのかを普段の仕事を通じて知り、関心を持っていれば、全体は最適化して事が進んでいく、と考えられるのではないでしょうか。

 

現在、幹部メンバーには外部の研修機関で「会社全体の経営がどうなっているか?」を考える機会を持ってもらっていますが、そうしたことを考えるのは幹部だけの仕事ではありません。

ぜひ、みなさんにも同じように考えてもらえたら、と願っています。

 

その中で「こう仕事を進めた方がいいのではないか?」といった意見が出てきたら積極的に議論してほしいと思いますし、「社長に意見したい!」というのも大歓迎です。よろしくお願い致します。

Adobe Summit 2019 ビジネス変革へ 改めて考えるCXM: Customer Experience Management

毎年開催されているAdobe Summitですが、今年はサブタイトル「The Digital Experience Conference」が掲げられ、デジタルエクスペリエンスは次のステージに入っていることを非常に強く感じました。

「ダイアモンドスポンサーとして、電通イージスネットワークもブース出展」

Adobeは2018年にMA(マーケティングオートメーション)ツールMarketo(マルケト)、そしてコマースプラットフォームのMagento(マジェント)を買収しました。今後はBtoBからBtoCの領域、コマースをよりカバーできることにより、ユーザー認知のところからトランザクションまで、一気通貫してカバーできるようになったのが大きな変化です。

そのような大きな変化に伴い、CXMの再定義、またどのようにコミットしていくのか見直されています。

新しいデータをマネージメントするためのエクスペリエンスプラットフォームを再構築する動きは、海外からすでに始まっています。電通アイソバーとしてはグローバルなクライアントも多い中、今後より一層、意識を向けていくべきところだと感じています。

また2018年後半には、Adobe、Microsoft、SAPの3社がパートナーシップを提携することを発表されていますが、企業の持っている基幹データ、CRMデータとデジタルマーケティングで得られるデータを統合し、データモデルを作りクラウド上で使えるようにするプロジェクトOpen Data Initiativeを進めています。こうした事から、Adobeはグローバルなマーケティングプラットフォームとして、企業のデジタルトランスフォーメーションの非常に重要な役割を担っていくことになると思いますが、そのAdobeのMagento(マジェント)買収は、企業のコマースプラットフォームへの注目度を高めることになると想定しています。電通アイソバーとしては「CXデザインファーム」としてお客様と共にビジネスを更に広げていければと思っています。

 

急速に進化する、アジアのデジタルマーケティング

先日、Nikkei Asian Review主催のセミナーに登壇させていただきました。
アジアにおける、デジタルマーケティングは、経済発展とともに急速に進化しているのですが、日本のマーケターの皆さんが、そのことをあまり意識されていないのではないか、という危機感から、お話をさせていただきました。

どうも、デジタルというと、米国を先行事例として学ぶということが、これまでの慣例でしたので、なかなかアジアの動向に目が向かない。インバウンドや越境ECといった日本国内から見えやすい現象には注目が集まりますが、部分的な見方しかされていない印象があります。
マクロ的な統計で見ると、まず驚かされるのが、日本よりもデジタルシフトが急速に進んでいる点です。広告費で見ると、日本のデジタル比率は3割に満たないですが、例えば中国ではすでに6割、台湾でも4割近くがデジタル広告費です。2021年には、中国では、7割を超え、台湾でも5割を超えると予想されていますが、逆に日本では3割を少し超える程度と、変化はゆっくりだと予想されています(eMarketerの予想)。
そして、ECの普及という点で、アジアは世界をリードしています。一般消費財におけるECの利用率は、APAC全体ではすでに15%を超え、北米やヨーロッパの普及率の倍の水準です。APACの中には、オーストラリアや日本も含まれますが、両国ともEC化率は7%台で欧米並み。その一方、中国は23%。韓国が16%と市場をリードしています。ECの内訳をみると、モバイルの比率が高いのも、アジアの特徴で、ECにおけるモバイルの比率は、インド、中国、韓国では6-7割と、非常に高くなっています。
インターネットがモバイルの普及とともに浸透していった新興国市場では、モバイル、ソーシャルメディア、EC(特にモバイルコマース)が足並みを揃えて利用者を増やしており、固定回線+PCでネット環境が整備されて来た先進国とは、大きく異なる発展を遂げています。モビリティ、コスト面でのフレキシビリティ(プリペイドでも使えるとか、FreeWifiとか)、ソーシャルメディアとの深い連携など、インターネットの普及を加速させる要素が詰まっていたわけですが、メディア環境が未成熟であった故に、その活用度合いは、先進国を凌駕する勢いです。
この背景には、①アジア発のDigital Disruptorの存在、②アジア各国の国家戦略、③ミレニアル世代の存在感といったことがあげられるかと思います。
すでにアジアには、巨大な中国市場を背景にBAT(Baido, Alibaba, Tencent)といった企業価値でも世界トップレベルのネット企業が存在し、それに続くように、多くのユニコーン企業が存在しています。中国におけるユニコーンの数は、米国に匹敵する規模になっていますし、BATのような先輩格の企業が多くのスタートアップに出資し、彼らの成長を支援しています。
こうした企業群の成長の背景には、国家戦略としてデジタルインフラの整備やスタートアップ企業の育成を政府が掲げている、ということがあります。かつて日本でもe-Japan構想というのがありましたが、中国やインドでは、デジタルインフラの整備が国主導で行われていますし、ベトナムではIT人材育成、シンガポールではスタートアップ育成が強力に推し進められています。日本では、ここ最近、国の戦略としてITやデジタルというテーマが掲げられることが無くなってしまいましたが、その間にアジアの環境はトップダウンで変わろうとしています。
消費者の側に目を転じると、アジア各国では、いわゆるミレニアル世代が人口構成の約3割を占め、デジタルネイティブとしてデジタル化された消費生活を積極的に需要し、ユニコーンやスタートアップの成長を支えています。日本では、ミレニアル世代は17-8%程度と見られ、今後の景気の先行き感や所得水準が上がりにくい環境から国内消費を必ずしもリードしていないわけで、日本国内にいると、その影響度合いをイメージすることが難しいかもしれません。アジアでは、経済発展とともに所得水準も向上し、モバイルインターネットで海外の情報にも触れ、モバイルコマースを活用し、海外旅行も積極的に楽しんでいる世代でもあります。ソーシャル上でもアクティブであり、日本のマスメディアのような伝統的メディアが未成熟であった環境からの変化を考えると、飛躍的に情報消費量も拡大しているはずです。

こうした環境に向けて、日本企業がマーケティングを行っていくのであれば、日本と比べて、相当にデジタルに注力をすべきでしょう。モバイルファーストは言うまでもありませんし、ソーシャルの影響力の大きさを十分認識しなければ、マーケティング予算を無駄に消費することになります。新しいテクノロジーへの受容性も日本より高く、それ故、ありふれた手法のデジタルコミュニケーションでは埋もれてしまうかもしれません。
Isobarは、日本を含めアジアの11の国と地域に合わせて約2800名のスタッフがおり、各国でグローバル企業、ローカル企業の双方に対してデジタルマーケティングの支援を行なっていますので、オフィス間のネットワークを活用しながら、それぞれの市場の状況を踏まえた戦略立案・コミュニケーションプランニング等の支援を日本の皆様にもご提供していきたいと思っています。

Adage Agency Ranking 2016

恒例のAdage Agency Reportが発表されました。
昨年のこの時期は、まだRazorfish Networkに繋がっていたことを考えると、自分たちの環境も急速に変化したと思いますが、このリポートを見ると、改めて、この1年の変化の大きさも実感します。ちなみに、IsobarはDigital Agency Networkとしては、14位にランクされています。
 Agency Companies Ranking Digital Agency Network Ranking
このランキングを見ると、従来の広告会社の影が薄くなり、Accenture, Deloitte, IBM, Epsilonといった「異業種」参入組が更に拡大しているという印象を持たれると思います。AccentureやIBMの数字の伸びが半端ないですから。
(ちなみに、日本勢の前年比がマイナスなのは、円ドルレートが1割以上円安に振れたことが要因ですので、ご注意。こうしたレポートでは為替変動を意識しておく必要があります。)
このランキングに関して、理解しておくべきなのは、あくまでAgency側の自己申告によって登録されるということです。
毎年2月に締め切られる自己申告のデータに基づいて、ランキングが作成されますが、Revenueなどのデータは、Adage側のカテゴリーに則して記入されます。その中にDigitalもありますが、申告のための調査票には細かな定義は書いてありません(笑)。なので、申告する側の判断で、デジタル領域の数字は決められている訳です。
異業種をまたがったランキングとなっているため、このDigitalのカテゴリーでそれぞれの会社が言わんとしていることは、実際には随分異なっているかと思います。なので、ひとくくりにDigital Agencyと言っても、それぞれがどのようなビジネスを中心に行っているのか、冷静に考えてみる必要があります。
また、近い将来にAdageが新しいカテゴリーをつくったり、定義を変えてくる可能性もあります。メディアとしては、読者に興味を持ってもらえる切り口を常に考えなければいけない訳ですから。
今後も新たな異業種の会社が入ってくる可能性大だと思います。例えば、ITサービスでAccentureなどの競合としても名前が挙げられる、インドのTCS、Infosysといった会社もDigital領域を伸ばしているとアピールしています。最新のTCSの決算発表を見ると、4QのRevenueの15%はDigitalから、ということですから、仮に同じ比率で年間のDigitalによる収益を計算すると、$2.5bilionにもなるわけで、Adageに登録されれば、いきなり上位に入ってくることは必至ですから。
ちなみに、IR資料を見ると、Accentureは、本会計年度上期の収益は、前年比103.6%、IBMは1Qで-4.6%と前年割れをしています。既存事業からデジタルマーケティング事業へのシフトは、IR対策上も重要なアピールポイントなのだと思います。

IoTとAIで何が変わる

当社では、毎週月曜日の朝に、「朝会」という全社会議をやっています。私も毎週、5分程度(実際には、しばしば10分ぐらい話してしまうのですが)の話をするのですが、このところしばしばテーマにあがるのが、IoTとAIです。
我々のビジネスの周辺には、新しいテクノロジーが次々と押し寄せてきますが、その中で、マーケティング領域に本質的な変化をもたらすものとして、IoTとAIについては、きちんとした理解をしておく必要があると思っています。
表層的な技術によるインパクトは様々ですが、IoTとAIによってもたらされる変化をなるべくシンプルにまとめると、こんなことかと思っています。
  • モノが常時、インターネットに繋がる
  • モノだけではなく、ウェアラブルなど周囲の様々なデバイスにより、人も常時繋がる(Internet of humanとか Human internet of thingsとも言われる)
  • 大量のセンサーがばらまかれることで、大量のデータがネットワークで流通する
  • 大量のデータをさばくために、AIが活躍する
  • ある程度のインタラクションは、AIが人の前さばきをする
もう少しイメージを膨らませてみましょう。
モノやヒトが、常時繋がることがどの程度インパクトあるかと想像してみると、インターネットが、ダイアルアップから常時接続になって、我々の情報環境が一変したようなことが起きてくるのだと思います。
当時、ネット上での様々なサービスがプル型からプッシュ型に変わってきたように、モノが我々の行動を促すようなことがおきてくる。冷蔵庫の残り物からメニューを提案するといった、「インターネット冷蔵庫」のアイディアは、10数年前からありましたが、現実性を帯びてきますし、エアコン、洗濯機、掃除機といった白物家電は自動化を進めつつ、ユーザーのフィードバックを受けながら更に機能を向上させて行く可能性があります(もちろん、コストと提供される価値のバランスの中で変わってくるのだと思いますが)。
車や家といった、高額な耐久消費財においても常時接続は大きなインパクトをもたらすはずです。単価が高い商品だけに、手を加えやすい。またモノを売るだけでなく、その後のサービスもセットされて消費されることが主流の商品ですから、尚更です。
IoT
IoTにはセンサーが不可欠ですが、センサーの発達・普及によって、収集できるデータの種類や質が大きく拡大するということも見逃せません。従来取れていなかったデータがとれることで、これまで見えていなかったことが「見える化」するわけです。
ヘルスケアの分野で考えてみましょう。普段、年1回の健康診断を受けている人が、ウェアラブルなどで常時健康状態をモニタリングできるようになれば、どうでしょう?何か異常がおこれば即時に発見することが出来る。重い病気の発見が早まり早期治療が実現、医療全体の在り方を変えることになります。また、データを点ではなく、線でみることができるようになり、それまで分からなかった因果関係が見えてくるということもあるでしょう。こうしたことが、医療判断の精度を高めることになります。
IoTによって、かつて無いほどのデータが流通することになりますが、そうなると、それらを処理し分析することも一苦労。そこで、AIの活躍が不可欠になります。考えてみれば、機械学習は大量のデータの存在が前提としてあって、それらをインプットすることで人工知能は賢くなっていきます。インターネット以降の大量データの発生が現在のAIの進化とブームの背景にあるようですが、このAIブームは、IoT時代になって、いよいよ本格化してくるはずです。
そして、進化したAIは、コミュニケーションの領域でも、更に活躍の場を拡げ、botに代表されるようなユーザーインターフェイスの裏側を支える存在として、不可欠のものになっていくはずです。我々が日常使っているあらゆる家電製品の中にマイコンが入っているように、スクリーン、音声を問わず、UIの中にはAIが仕込まれているのが当たり前になるまでに、そう時間はかからないでしょう。
こうした新しい技術トレンドがマーケティング・コミュニケーションにどういった影響をあたえるのか、マーケターは常にアンテナを張り、本質的な理解を深める必要があると思います。