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2020.2.06 開催セミナーレポート

顧客の時代を生き残るCX戦略 – 心を動かすクリエイティビティ × テクノロジーとは –

今日、ひとはモノやサービスを購入するまでに、ネットかリアルかを問わず多岐にわたるタッチポイントに接するようになっています。多くの企業もこの事実を捉え直し、「オンライン・オフラインの区別なく上質な顧客体験(CX)を提供する必要がある」と認識し始めました。そうしたマーケティングの考え方が大いに注目された2019年は、まさに「CX元年だった」とも言えるでしょう。
この変化の背景には、テクノロジーおよびデータ活用のハードルが下がり、顧客と企業がより心地よいコミュニケーションができる環境が整いつつあるからだ、と考えられます。しかし一方で、テクノロジーやデータ活用だけでは、CXが成立しえないことも分かってきました。
そこで、再び注目され始めたのがクリエイティビティの力です。心を動かすクリエイティビティとテクノロジーの融合は、顧客の「心を動かす」ことはもちろん、他社との差別化にもつながると考えられます。
2020年2月6日に開催した「顧客の時代を生き残るCX戦略- 心を動かすクリエイティビティ × テクノロジーとは -」は、CXプランニングとその実現に強みを持つ電通アイソバーと、最先端のCXプラットフォームを提供するアドビが、テクノロジーとコミュニケーション双方の観点から、最適な顧客体験を提供するためのヒントを紹介したセミナーです。ここでは、その場で共有された内容をレポートします。

楽器購入という体験から、CXを紐解く

本会で、「クリエイティビティとテクノロジーで展開するCX」と題したセッションを担当したのは、電通アイソバー株式会社関西支社CXコミュニケーション部の船井宏樹。
冒頭、「クリエイティビティとテクノロジーで最適なCXを展開していこう、というのが今日のテーマだが、まずはCXとは何なのか、あらためて考えてみたいと思う。
CXは、顧客体験や顧客経験価値と訳されるが、それは一体どういうことなのか? 過去の体験を通して考えてみた」とし、自身がトランペットを購入したエピソードを例に挙げました。
「まず、トランペットが欲しい、と思ったら、ネット検索をしたり、プレイヤーたちのブログに目を通したり、専門雑誌を読んだり、同じ趣味を持つ仲間に相談したり、YouTubeの動画を見たり、楽器メーカーの公式サイトを比較したりもした。その後、『良さそうだ』と思うトランペットを扱う楽器店に行き、試奏をしてみた。そこで、さらに候補が絞られるが、『よりおトクに買いたい』あるいは『中古の楽器はないか?』『アフターメンテナンスのサービスはあるか?』などを調べ、納得いくものを購入。購入後は楽器仲間に新しい楽器をお披露目する、というのが私の体験の一部始終だ。
この“ほしい”と思ってから購入までの間、どういうチャネルに触れたかと言うと、FacebookやInstagram、ブログや雑誌、音楽教室や楽器店、楽器の公式ウェブサイト、メルカリにも触れた。こうして挙げると、オンラインやオフラインが複雑に絡み合っているというのが分かるだろう」。

オンライン・オフラインを通して最終的に購入を決めたきっかけは?

では、船井が語ったオンラインとオフラインでの数々の体験のなかで、最終的に購入を決めたきっかけはどんなことだったのでしょうか? それを知ることが、最良のCXと何か? を紐解くヒントになると考えられます。

「様々な体験を通して、ここで買いたい、買いたくない、と感じる瞬間があった。バッドエクスペリエンスの一例としては『試奏していいか?』と尋ねるといかにも面倒だ、という反応をする店での出来事だ。逆に、フラッと入って試奏した楽器店から『吹き方のクセを見るとこちらの方が合っているのではないか?』とのアドバイスを添えた手書きの来店お礼の手紙が届いたこともあった。
最終的に私はその手紙を送ってきてくれた店舗で楽器を購入したが、決め手はそのオフラインでのコミュニケーションだった」と、船井。

このエピソードを披露した締めくくりとして、「テクノロジーやデータを用いたデジタルマーケティングを担当する人は、顧客体験を考える上で、ウェブ上での顧客の体験だけでなく店舗での体験も重要だと頭に入れておく必要がある、とあらためて感じた体験だった」と、CXをデザインする上での重要なポイントを強調しました。

最も大切なことは、パーソナライズされた体験を提供すること

先述の船井のエピソードで得られたCXのポイントの本質は、「店舗が手書きの手紙を送ったこと」ではありません。最終的な決め手となったのは、あくまで、画一的なメッセージではなく「私個人に向けたメッセージだった」というところにあります。

この点について船井は、Adobeが2019年に行なった「Adobe Digital Experience Index 2019」という調査データから、「実店舗かオンラインかを問わず、自分にパーソナライズされた体験を期待している、と思う人の割合は57%にのぼる。そう思わないという人は8%なので、顧客は『私にあった情報を提供してほしい』と期待していると見通せる」と、読み解きました。

また、「『コンピューターより人とやり取りしたい』と考えているのは23%だが、機械であろうと人であろうとどちらでもいいと考えるのは27%だった。実店舗かウェブか、というチャネルにはこだわらなくなっていると考えられそうだ。
さらに、『技術的なイノベーションは生活を向上してくれる』と期待する割合は69%にのぼり、『企業とのやり取りが完全自動化されていたとしても、うまく導入されていれば満足できる』と感じている、例えば『企業から送られるメッセージが手書きだろうとメールのようなデジタルのものであろうとどちらでもいい』と感じる人は58%にも達すると分かった」としました。

これらを総合すると、「パーソナライズされた良質な顧客体験をオンライン・オフライン上で上手に提供してほしい」というのが、顧客が期待していることなのだと考えられます。

CXは、デジタル上に「わな」を仕掛けて顧客がかかってくるのを待つことではない

こうした話をすると、データやテクノロジーの可能性を過度に評価したり、「デジタルによってデータをインテグレートしてビジネスをトランスフォームしながらデザインシンキングなAIでイノベーションを起こして云々」と言うような議論が持ち上がることが少なくありません。

また、現場では「一生懸命デジタル化を進めて、デジタルソリューションを導入しないといけない。テクノロジーをなんとかマーケティングにのせていかないといけない」というふうに考えて、結果としてデジタル上に「わな」を仕掛けて顧客がかかってくるのを待つ、という状況になることがあると聞かれます。

しかし、「そうした思考は顧客に見透かされてしまうものだ。CXはテクノロジーに牽引させるのではなく、うまく“思惑のにおい”を消しながらお客様に何をしていけばいいのか? を考えて行なうものだ」と、船井。
「電通アイソバーは『CX Design Firm』として、全体戦略からUXやUI、データの活用法やプラットフォームの導入と、その先に必要とされるクリエイティビティをベースに、クライアント企業と並走し、成長に貢献するようなサービスを提供している」と自社のポジションを説明しました。

顧客のニーズや期待と企業の製品やサービスをどう繋げるか?

では、良質なCXの実践とはどういった戦略設計で導かれるのでしょうか

船井は、「CXは、市場と製品の境界線を溶かしたり、のりとしてつなぐもの。いま行なっているエクスペリエンスの提供シーンを見直し、できてないことを考えることが大切だと考えている」とし、最良のエクスペリエンスに近付けるためのアプローチを考える上でキーステップとなる「4D」を示しました。

最良のエクスペリエンスに近付くための「4D」

Discover

現状把握、自分たちの立ち位置と競合分析。どういう戦略を立てるか?

Define

ターゲットを再定義する。どういうふうに、なにを?
→戦略や方向性につながり、ロードマップをつくって、体制を作る。なにで良し悪しを決定するか? 考える。

Design

実際にプロジェクトに落とし込んだり、管理して抽出する。 コミュニケーション方法を考える。

Deliver

実行し、課題点を抽出し、ブラッシュアップする。

4Dについて、「シンプルに言い換えると、現状を知り、あるべき姿を考え、差分やギャップの解決策を考えることだ」と船井。続けて、解決策を考える際に重要な3つのポイントを次のように提示しました。

差分やギャップの解決策を検討するための3つのポイント

1.お客様のタッチポイント

たとえば楽器購入時はたくさんあったが、複雑な動きを把握して、それを意図して戦略を組み上げることが必要とされている。

2.データ

お客様を知るためにこれがなくては始まらない。理解もそうだし、施策評価にしてもそう。これをプラットフォームを利用してお客様と結んでいく。

3.プラットフォーム

この文脈では、プラットフォームとは、分析基盤やマーケティング基盤などを指す。例えばAdobe Experience Cloudなど。どういうツールをどのように組み込むと自分たちのやりたいことが実現できるのか? これを常に考える必要がある。

CXの成功には、高度な専門性を持つチーム同士の有機的なつながりが不可欠

ここまで述べてきたようなCXの実践を目指すためには、少なくとも2つの異なる視点とそれを担当する部署の力が不可欠となります。船井は、「CXデザインをするにあたり、極限までシンプルに考えるなら2つのベクトル(矢印)をイメージする必要がある」と、提案します。

CXデザインに重要な2つのベクトル

1.→:人を動かすモチベーション。

クリエイティビティとアイデアがモチベーション(人を動かすこと)の原動力になる。 主に、クリエイティブやマーケティング部門が得意とする領域。

2.↓:障壁をなくす、フリクションレスの実現。

テクノロジーやデータを活用することにより、優れたCXをドライブすることが可能になる。主に、ITやデータ分析を得意とする部門の領域。

CXデザインに重要な2つのベクトルの考え方は、多くの人が納得しうるものでしょう。 しかし、多くの企業では、こうした2つのベクトルが重要だと分かっていても、実際の業務において「マーケ部署とIT部署が意思疎通うまくいかない」、「クリエイティビティを担当する部門とデータ活用を司る部門とでは専門性が異なり、文化も違う」「各部署でKPIが異なる」といった壁が立ちはだかり、プロジェクトを停滞させてしまうことすらあるようです。

各チームが高度な行動を起こし、かつ、有機的につながる、といった組織体を構築することは一企業内では難しい場合もあるかもしれません。さらに、そうした組織を横断したり、直面している課題に応じてチームのリソース配分を考えていく司令塔的な役割を果たす人材も、そう多くはいない、とも想像できます。

この課題について船井は、「目指したいことのひとつは、タッチポイントとデータをプラットフォームで結びつけることだ。戦略設計をするにあたり、クリエイティビティや製造、プロモーション、戦略策定などタスクが分かれており、各分野には高い専門性が求められる。それを最良の形で連携させ、クライアントの最も大切なお客様の顧客体験をテクノロジーとクリエイティビティを活用してご支援するのが電通アイソバーの役割だ」と締めくくりました。

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